2016/06/26

肺動脈瘤と肺動脈解離


今日でたセミナーで、肺動脈瘤という病態を初めて知った。

Surgical treatment of pulmonary artery aneurysm: an institutional experience and literature review.
Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2016 May 25.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27226398

当たり前だが稀な疾患。
surgical repairは慎重に症例を選ぶべきだが、予後は良さそう。

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肺動脈解離という稀なcase report
A rare complication of pre-Eisenmenger patent ductus arteriosus: Pulmonary artery dissection.
Int J Surg Case Rep. 2013;4(5):483-5.

A Rare Case of Pulmonary Artery Dissection Associated With Infective Endocarditis.
Medicine (Baltimore). 2016 May;95(19):e3358. 

なんらかのPHを伴う先天性疾患で発生しやすいのか... 

Mechanical circulatory support for fulminant myocarditis

劇症型心筋炎に対する補助人工心臓およびTEEの役割についてのreview

2009年って最近と思っていたが、もう7年も前なのだ。

Mechanical circulatory support for patients with fulminant myocarditis: the role of echocardiography to address diagnosis, choice of device, management, and recovery.
J Cardiothorac Vasc Anesth. 2009 Feb;23(1):87-94.

以下memo
劇症型心筋炎(以下FM)によっておこる心筋の変化は浮腫による肥厚である。
心筋生検は感度が低い。数回に渡る生検が必要であるが、左室の自由壁に所見が見られやすい。Giant cellを認める心筋炎では移植となる可能性が高くなる。
補助人工心臓(以下MCS)の適応は以下の通り
1) 治療抵抗性の血圧低下、
2) CI < 2.0
3) CVP > 10-12 PCWP > 15-18 
4) Lactate < 2mmol/L
PCPSを導入しても状態が改善しない場合はMCSへの切り替えを考慮すべきである。
MCS中の組織灌流を保つために最も重要なことは、CVPをできる限り低く保つことである。CVPの上昇すなわち静脈系のうっ帯はhepatic hypoxiaの状態を作り出す。

急性期を乗り切るためのMCSではまず、ECMO、そしてIR 100、VADがある。
(※ IR 100は2000-2005年ごろに使用されていたVAD装置のようだ。上行大動脈からA弁をつっきってLVに先端を留置、LVからポンプで吸い上げた血液を上行大動脈に送るという仕組み。その後流行っていないところをみると、もう使われていないのか・・・?)

PCPS導入中にLVの拡大や、MRの出現が認められた場合は、PCPSの効果がないとみなしLVADを入れるべきである。

LVAD挿入後の右心不全の指標
RV wall akinesia 
RVEDD >> LVEDD (end diastolic diameter)
RVEDD > 85mm 
RVEDV > 200ml 
RV-FAC < 25% 
TAPSE < 10mm 
RV-RA pressure drop < 30mmHg 

CVPが高いのにPA圧があまりにも低いのも右心不全の特徴の一つである。

MCSをつけた心筋炎患者の回復の評価は3つのパラメーターで行う。
1) clinical sign  
 末梢循環の改善、利尿、Lactate < 2mmol/h
2) 循環指標
 CVP < 10mmHg  SvO2 > 70  PCWP < 10mmHg 
3) echographic
 LVEF > 35  RVFAC > 30-40 心タンポとなっていない、心内血栓がない



2016/06/20

Pregnancy with CHD induces massive blood loss?

先天性心疾患では出産時の出血が多くなるのか?
後ろ向き調査 n=366  イギリスからの報告。

Why is post-partum haemorrhage more common in women with congenital heart disease?
Int J Cardiol. 2016 Sep 1;218:285-90.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27240153

出産リスクをCARPREGスコアで分類、また先天性心疾患のカテゴリーでも分類。
経膣で>500 帝王切開で>1000を出血多量とした。

結果、366出産中、21%で出血多量との診断となり、平均的な出血リスクに比べて高い結果となった。
何が出血と関連しているかを分析した結果、
1) Fontan disease 2) 緊急C/S  3)鉗子分娩 4) 全身麻酔 5)ヘパリンの使用の有無
が出血量と相関していた。
また分娩時期としてはFontan, PHTの患者でより短かった(平均 34.2-35.7w)。
(この論文、statisticsが独立したパラグラフとしてなくて、説明がかなり貧弱なんだけど、
この分析は多変量ロジスティック回帰分析で行ったのだろうか? よくわからない)

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サンプル数が多くてもっといい分析ができそうなのに…と思う論文だった。

しかし、Fontan患者は全員区域麻酔で行っている点や、ENTONOX (NOとO2の混合ガス)を使用した麻酔方法での帝王切開がけっこうな数で行われている点は驚いた。
ENTONOXって見たことも使ったこともない。日本にはない。



2016/06/12

Anesthesia and pediatric neurocognitive outcomes


JAMAに麻酔の話ってめずらしい。
でも小児麻酔の神経毒性についてはNEJMとかLancetとか、けっこう大きな雑誌に取り上げられている。小児領域でも関心のあるところなのだろう。

PANDA study
Association Between a Single General Anesthesia Exposure Before Age 36 Months and Neurocognitive Outcomes in Later Childhood
http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2526640

36ヶ月(3歳)未満で鼠径ヘルニア根治手術を受けた小児105人と手術を受けていない小児(入院歴あり)105人を対象に、8-15歳での神経学的認知機能の評価を行った。

もともとの母体数(鼠径ヘルニア根治術施行患者数)は9038人であったが、手術回数(1回)、年齢(36ヶ月未満)等の基準をみたし、同意が得られた患者は105名であった。

統計にはR statisticを使用。ANOVAでIQの違い、麻酔暴露期間の違い、暴露時間の違いによって比較を行った。

結果として、神経学的認知機能(IQテストの結果)には0.2 pointの差を認めたが、これは有意な差とは認められなかった。最も差を認めた項目はBehavior のinternalizing behavior(内面行動?)であった。

2015年にLancetにGAS trialが発表されているが、このトライアルでは神経学的認知機能の評価を5歳で行なっている。PANDA studyでは認知機能がはっきりと評価できる8-15歳で評価している点が異なる。

またこのPANDA studyでは参加した子供の両親の学歴や年収、持ち家区分、加入している保険の種類まで調査しており、経済状況が児のIQと相関していることも指摘している。
この経済状況のbiasを取り除く必要があり、このstudyではそれができていると。


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この論文で鼠径ヘルニア手術くらいの麻酔では特に問題ないですよ、と自信をもって言えるようになったのだろうか。

Lancet のGAS trial
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(15)00608-X/abstract

高橋和夫教授「国際理解のために」21:30-


テレビはないので、情報はもっぱらラジオである。

土曜日の午後21:30からやっている放送大学の「国際理解のために」という講座が
非常に面白い。

アラブ、イスラムの歴史と現代政治に精通した著者が、それらを何も知らない私たちにも
わかりやすく、しかもユーモアを交えて話してくれる。
決して難しい話ではなく、楽しいのだ。これは話術が優れているプラス背景知識の豊富さが並外れているからだろう。

偉そうに私が言うことでもないけど、この人すごいなーと思う。

一人勝ちは今の国際社会においてありえないのだ。

Risk score of pregnancy of congenital heart diseases


2001年にCirculationに心疾患合併妊娠のリスクについての論文がでた。CARPREG study
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11479246
しかしこの時、先天性心疾患での妊娠患者の数はほとんどふくまれていない。

2010年にCongenital heart diseaseでの妊娠のリスクについての論文がEuropean Heart Journalに発表。 ZAHARA study
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26112887

1802人の先天性心疾患妊婦の分析調査。
妊娠中の合併症で最も多かったのは不整脈(4.7%)、次に心不全と続く。心合併症が起こるリスク因子は、チアノーゼ性心疾患、妊娠前の心疾患治療薬の内服、左室機能(Left heart obstraction 中身を読むと、ASのことのようだが)であった。機械弁と房室弁逆流は中程度のリスク因子であった。
産科的合併症で最も多かったのは高血圧であり、妊婦の病態と産科的合併症の間には相関は認めなかった。


2016/06/11

Dilated Cardiomyopathy and pregnancy


JACC 2009年の論文。これ以降、DCM合併妊娠でまとまった数のあるデータはでていない。

Pregnancy outcomes in women with dilated cardiomyopathy.
J Am Coll Cardiol. 2009 Dec 29;55(1):45-52. doi: 10.1016/j.jacc.2009.08.036.

カナダからの報告。1994年から2008年までに大学病院およびマウントサイナイ病院で登録されたDCM合併妊娠患者の後ろ向きデータ。

32人のDCM合併妊娠患者について
1) 周産期の心疾患および新生児合併症の発生頻度をさぐる
2) 妊娠がDCM患者に与える影響(心機能の悪化の程度)をさぐる
ことを目的に行われた。2)については18人の妊娠していないDCM患者と妊娠したDCM患者をマッチングさせて比較を行った。

1) 周産期のDCM悪化要因の検討。
単変量解析でp < 0.1となった要因をもとに多変量ロジスティック回帰分析を用いて分析
EFとNYHAは相関性を認めたため、1個の項目として扱った。
32人のDCM合併妊娠患者のうち、心疾患イベントを認めた人数は14人(39%)であった。心疾患イベントで最も多かったのは心不全であった。心疾患イベントを認めなかった22人と比較して、中等度から重度の左室機能低下および NYHA III/IVがリスク因子であった。

2) DCM患者で妊娠の有無によるマッチングでは、妊娠した女性の方がより心合併症を起こしやすい傾向が見られた。Log rank p value = 0.001 

新生児の合併症も中等度から重度の左室機能低下および NYHA III/IVとなった患者群で高い傾向にあったが、この理由については不明と、discussionで述べている。

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なかなか麻酔方法について乗っている論文はない。


DCM合併妊娠患者7人について、合併症の有無でNTproBNPに左があるかを見た研究
(7人って少なすぎると思うが、単施設で7人はかなり多い方だろう)
結果として心合併症が起こった3人ではNTproBNPが上昇していたと。
Short and long-term outcome of pregnant women with preexisting dilated cardiomypathy: an NTproBNP and echocardiography-guided study.
Isr Med Assoc J. 2010 Oct;12(10):613-6.

インドでのDCM, PPCM(周産期心筋症)の後ろ向き研究 38名のDCM PPCM (妊娠前からのDCMは2名のみ)の予後について
14/38がemergency roomに突然やってきたPPCMであった。8名の母体死亡があった。
C-sectionは5/38で行われ、すべて全身麻酔で行われた。
Pregnancy with dilated and peripartum cardiomyopathy: maternal and fetal outcome.
Arch Gynecol Obstet. 2013 Feb;287(2):195-9. doi: 10.1007/s00404-012-2543-8. Epub 2012 Sep 7.

インドの報告は前のカナダの報告に比べてかなりEFも悪くて死亡率も高い。
出産前にどれだけコントロールしているかが、合併症発生、死亡率低下の要となりそう。







2016/06/05

LVAD implantation to a patient with HIT


LVADの装着術で、患者さんがHITだったら、どうするか?というCase report。
しかも透析もされている。

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053077014004352

55歳の男性でHT、DM、Afibを合併。PM (CRTD)の挿入もされいている。PM装着術の時にワーファリンのヘパリン置換を行ったところ、血小板が14万から8万に低下し、HIT(+)との診断となった。
しかしその後心不全で入院、EF 18%であったため、LVAD装着の適応と考えられた。診断名はDCM。ヘパリンに変わる代替療法としてアルガトロバンも候補に挙がったが、ポンプ離脱時の出血コントロールに難渋するリスクがあったため、bivalirudinを使用することととした。
CPBのプライミングvolumeの中にbivalirudinを50Mg投与し、CPB開始20分まえに1mg/kgのボーラスを実施。ボーラス投与でACTが450以上に伸びなかったため、1.5mg/kgの追加ボーラスを行った。その後2.5mg/kg/hの持続投与を行った。40分後に再度ACTが450を下回ったため、0.5mg/kgの追加ボーラスを行ったが、その後の追加は必要としなかった。
CPBからの離脱はスムーズでDOB 7.5 γ ,ミルリノン 0.75γ NAD 0.1γとNOの吸入で離脱した。

bivalirudinはトロンビンと結合して抗トロンビン作用を示す。
ACTよりもECT(ecarin clotting time)の方がより正確に活性化を示すとされている。
bivalirudinを使用したCBP症例は OPCABG およびAVRがあり、ECMO装着でも使用して問題なかったとの報告もある。

HIT患者が心臓手術を行う場合のガイドラインが2012年に示されている。
Treatment and prevention of heparin-induced thrombocytopenia: Antithrombotic Therapy and Prevention of Thrombosis, 9th ed: American College of Chest Physicians Evidence-Based Clinical Practice Guidelines.
Chest. 2012 Feb;141(2 Suppl):e495S-530S. doi: 10.1378/chest.11-2303.
まず第一にはHIT抗体が消失するまで手術を延期できるのであれば延期すべきである。
消失までに40-100日程度)
待てない手術の場合はbivalirudinの使用が推奨。
bivalirudinは20%が腎排泄。のこり80%はトロンビンによるproteolysisで除去される。半減期は25分と短い。

2015年のNEJMに急性冠動脈症候群でヘパリン vs bivalirudinのRCTが載っていたが、ヘパリンと比較しての優位性はなかったとの結論だった。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1507854

でもbivalirudin、日本では今のところ使えない。

Obstetric anesthesia in USA

A&Aにアメリカでのここ30年の産科麻酔に関わる報告が載っていた。

http://journals.lww.com/anesthesia-analgesia/Abstract/2016/06000/Obstetric_Anesthesia_Workforce_Survey___A_30_Year.33.aspx

日本とはかなり状況が違うなと...

1981年から2012年まで10年ごとに調査している結果の報告。
分娩施設を年間 1500以上の分娩を扱う病院、500-1500、500以下の3つに分類してその動向を調査している。

全体としては、
小規模病院では認定麻酔看護師による麻酔の実施率が増加している(68%)
区域麻酔がより多くの施設で実施可能となっている。
経膣分娩で麻酔なしに行うのは9-14%しかない。71%が硬膜外麻酔を実施、15%がCSEを実施している。
帝王切開の麻酔方法はspinal onlyが大多数。予定C/Sの75-88%がspinal onlyである。
予定C/Sの全身麻酔率は3%、緊急C/Sの全身麻酔率は14-19%。
Epiduralは予定で13-16%で緊急では40%程度となっている。

産科学会が帝王切開率の低減を推奨しているため、TOLAC trial of labor after cesarean が推奨されているが、緊急C/Sのスタッフ配置がされていない小規模病院ではこれが難しくなっている。

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C/Sではない分娩での麻酔はほとんど日本では浸透していない。
これって麻酔科医の数だけの問題なんだろうか?

Pulmonary hypertension and pregnancy

肺高血圧症の妊娠におけるリスクと予後についてのreview

Pregnancy and pulmonary hypertension.
Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol. 2014 May;28(4):579-91.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24685319

PH合併妊娠の死亡率は高く、1998年の報告では38%、2014年の報告でも16%であった。死亡原因としては、右室不全、突然死、そして肺塞栓症である。またEisenmenger症候群をひきおこし、脳梗塞となった例も報告されている。
予後予測としてはNYHAが最も相関している。
妊娠中の治療としてCaCBが効果があるとされている。また塞栓症のリスクが高いため、抗凝固療法(ヘパリンがbetter)が、右心不全の予防のための利尿薬も推奨されている。その他の治療薬としてERA、PDE阻害薬、プロスタノイドがある。
31編(77人の妊娠を含む)のPH pregnancyを対象とした論文の分析では死亡率は16%であった。ほとんどの死亡は産褥期1day-3weeksに起きているが、1例は児娩出後にオキシトシン投与後SVTが止まらずになくなっている。またmPAP > 35を基準とした中程度PHと重症PHでは重症PHでの死亡率が高かった。
PH pregnancyの管理はまず避妊の教育である。
次にそれでも妊娠しまった場合には早期の中絶も考慮する必要がある。
また、妊娠継続を強く希望する場合は厳重な管理が必要である。O2 療法および利尿薬(アルドステロンは催奇形性があるので避ける)によるvolume管理薬物治療を併用する。
分娩方法は経膣分娩が禁忌なわけではないが、妊娠週数の早期32-36wに分娩することを考えると、C-sectionとなることが多い。全身麻酔は区域麻酔よりも予後が悪化するとされているが、これは全身麻酔をうける妊婦の状態がより悪い状態である(そもそものbaselineが違う)ためであると考えられる。


2015年にPulmonary Vascular Research InstituteからPHの妊娠に関するステートメントが出されている。こっちのほうがオーソリティもある。でも描いてある内容はほとんど同じだった。やはり全身麻酔より区域麻酔を推奨している。single spinalは避けるべきと。
Statement on pregnancy in pulmonary hypertension from the Pulmonary Vascular Research Institute.
Pulm Circ. 2015 Sep;5(3):435-65. doi: 10.1086/682230.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26401246


日本からのPH pregnancyの統計調査
Maternal outcome in pregnancy complicated with pulmonary arterial hypertension.
Circ J. 2012;76(9):2249-54. Epub 2012 Jun 13.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22785004



2016/06/02

LVADにおけるvWFの細分化と出血傾向


LVAD装着時の易出血傾向について、vWFのフラグメント化が関与しているのではないかとする報告

Pathologic von Willebrand factor degradation with a left ventricular assist device occurs via two distinct mechanisms: mechanical demolition and enzymatic cleavage.
J Thorac Cardiovasc Surg. 2015 Jan;149(1):281-9.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25439775

8人のLVAD装着患者の血液(装着前後)と、8人の健康成人男性の血液でvWFの量およびフラグメント化についての研究。

LVADでは高分子量vWFが減少し、低分子量vWFが増加することが知られている。
遠心ポンプによるせん断応力(shear stress)と、健康成人男性の血液を遠心分離機にかけた場合のせん断応力の違い、およびADAMETS13の発現量についてタンパク電気泳動を用いて測定した。
LVAD装着によりvWFの分子量は低下し、また遠心分離機でも分子量は低下していた。
ここでvWFのみを抽出し、ADAMET13を混ぜた群と混ぜなかった群で比較したところ、ADAMET13を混ぜた群んの方がよりフラグメントが細分化されていた。
せん断応力がかかるとvWFは伸ばされるが、それがさらにADMET13の存在下ではせん断されると考えられる。電気泳動でフラグメント化されたvWFの濃度をみると、せん断とADAMET13ではvWFを切る場所が異なることもわかった。またせん断応力が血液に加わることで血中のADAMET13の活性化が強くなることがわかった。

人工補助心臓においてADAMET13は大きな役割を果たしていないとの報告も過去にはあるが、今回の研究ではLVAD自体によるせん断応力とADAMET13の両方が出血傾向に寄与していると考えられた。

ADAMET13はメタロプロテアーゼの1種であるが、抗生物質のテトラサイクリンはメタロプロテアーゼの阻害作用を持つ。またドキシサイクリンはADAMET13を阻害するため、LVADで出血傾向にある患者の治療として使用できる可能性がある。

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2016年に同じ雑誌から、LVADのflowを落としても、vWFのフラグメント化の度合いは変わらなかったとの報告もある。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26971377

遠心力によるvWFのフラグメント化と、そもそも抗凝固薬による出血傾向およびその
微小出血に対しての血小板の使用による枯渇とではどっちの方が出血傾向に寄与している
んだろうか。