2016/08/23

人工心肺中の酸素化は抑えたほうがいいのか?


9月号のanesthesiologyにCPB中の酸素化に関するpaperがあった。

A Multicenter, Randomized, Controlled Phase IIb Trial of Avoidance of Hyperoxemia during Cardiopulmonary Bypass
http://anesthesiology.pubs.asahq.org/article.aspx?articleid=2534431

P: 予定心臓手術をうける成人患者  N=298人
I: 人工心肺中のPaO2を75-90mmHgに保つ。 (SpO2が97以下であれば90mmHg以上も可)
C: 人工心肺中、FiO2 = 1.0で管理
O: Primary outcome: AKIの発生頻度
     Secondary outcome: 
 ・臓器障害を示すbiomaker  (troponin, AST, ALT, amylase, CRP)
    ・人工呼吸器装着時間
 ・ICU滞在時間・入院期間


結果としてはAKIもそしてbiomakerも、人工呼吸器装着時間も、すべてにおいて差は認めなかった。
しかし、逆にいうとこれって非劣性といえるのではないか?酸素化をしなくても予後に差はないということだ。といっても非劣性を証明するにはもう少しNを増やさないといけないとも思うが・・・

なんにせよ、心臓手術だと、冠動脈に酸素化した血液をと思うがゆえにFiO2は普通の手術に比べてやや高く設定しがちな気がするが(私だけ?)それも必要ないのかもしれない。
弊害とまでは言えないようだが。

2016/08/14

AS患者のcoronary flow/ischemiaとその病態 WIA

JACCの論文。麻酔下での研究をしたい。

https://content.onlinejacc.org/article.aspx?articleID=2542512


Wave intensity analysis of coronary arteries
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3968589/





















coronary arteryに流れるflowが拡張期だけではなく、収縮期にもあることは前から言われていたことだが、ではAS患者ではどうなるのか?という点についての論文。

読んだらまとめる。

2016/08/02

周術期のβブロッカー


JAMAに短いけれど、周術期のβブロッカーについて、とどめをさす(さしたい?)ような論文が掲載されていた。2015年だけど。

http://archsurg.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2294293



結論としては、心疾患リスクのないlow riskの人に新しく周術期にβブロッカーを投与するのは有害あって一利なしと。

もうこの議論はうんざりという感じなのだろうか。
それともこの先もまだまだ研究しては結論が覆されることもあるのだろうか。

TAVIにおける1ヶ月死亡率、1年死亡率の予後予測因子


JACCに新しくでていたTAVIの論文。
http://content.onlinejacc.org/article.aspx?articleID=2534593

3687人のTAVI施行のコホート調査。CireValve U.S. Pivotal programのデータを使用。
1ヶ月死亡の予後因子は自宅での酸素の使用、生活に介助が必要である状態、Alb < 3.3 g/dl 年齢 85歳以上であった。
1年死亡の予後因子は自宅での酸素使用とAlb < 3.3に追加してSTS PROM score > 7% Charlson Socre > 5 過去6ヶ月以内の転倒歴 であった。

年齢は寿命との関連もあるだろうから長期予後には入らないのは当然だが、この研究では自宅酸素使用が予後と関連していたのが新鮮だったらしい。


ちなみに今2016年現在でTAVIを行っている医療機関は日本全国で96施設。
今後もふえるんだろうか。

TAVIの予後とvon Willebrand因子


NEJMから。フランスでの研究
Von Willebrand Factor Multimers during Transcatheter Aortic-Valve Replacement.
N Engl J Med. 2016 Jul 28;375(4):335-44. doi: 10.1056/NEJMoa1505643.
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1505643


183人のTAVI(=TAVR)をうけた患者でHMW multimerとCT-ADP(これはポイントオブケアで測れるらしい)を計測したところ、術後のARが残存した患者ではCT-ADPの値が低下しなかった。また術中の値のカットオフ値を180としたところ、180以上の患者でのAR発見の感度は92.3 特異度は92.8であった。またCT-ADPの値と1年死亡率は相関があった。

背景として、TAVIの患者で術後ARが残存していると予後が悪いことは知られている。
よってこのARをいかに残さずに治療をおえるかが重要であるが、造影シネやエコーでもARを完全に見つけられるわけではない(そうなんかな?)
von Willebrand因子の多量体はARがあると低下する(ジェットによって細断されてしまうため)ことがしられているが、ARの改善によって分単位での増加が認められている(ここがこの論文で一番驚いた)。よってこのvon Willebrand因子の多量体の変化をとらえることがARの発見および改善の評価につかえるのではないかというのがこの論文。
そのためのCT-ADPというポイントオブケアの測定値を使用している。


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統計はcohortで primary cohortとvalidation cohortを行っている。今日読んだ他の論文でもこの手法が取られていた。cohort研究をする場合は必ずこのvalidation cohort、検証コホートが必要なんだろうか。 勉強してみよう。

Management of ventilation for pediatric patient

A&Aの小児の呼吸管理についてのreview

Optimal ventilation of the anesthetized pediatric patient.
Anesth Analg. 2015 Jan;120(1):165-75. doi: 10.1213/ANE.0000000000000472.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25625261

歴史
1963年にNEJMに発表された研究がその後40年の小児の呼吸管理の定説となった。その研究では15-20mmHgの圧によって呼吸し、40mmHgの圧を15秒間かけると、呼吸状態が改善するというものであった。この当時リクルートメント効果については理解されておらず、この結果から、12-10ml/kgのtidal volume(TV)を行って圧を高めにした方がよいということが通説となってしまっていた。この流れに疑問が持たれたのは最近のことである。
また、当時の呼吸器はその構造上から小児患者に対して正確なTV(100mlや50ml)を送ることは困難であり、これもやや多めのTVの方が安全かつ呼吸状態の改善ももたらした。
また、小児麻酔では一般的にPCVが用いられてきたが、これはVCVと比較してPCVの方が様々な要因(送気流量や設定されているTV、吸気時間、吸気圧など)による影響を受けないからである。しかし、近年麻酔器の進歩により、VCVでもより正確に患者にTVを担保できるようになり、新生児に対してはVCVの方がよいとの報告もでている(2010年のメタアナリシス)。

麻酔器とコンプライアンス
一般的に麻酔器自体にコンプライアンスという概念があり、通常5ml/cmH2Oとされている。これが意味するところは、例えば20cmH2Oの圧で呼吸を行っていた場合、5 * 20 = 100mlが患者に到達しないということである。成人では無視できるものだが、小児にとってはかなりの量となる。このコンプライアンスによる損失を補うために最近の麻酔器では患者に供給する手前で容量を供給する機能、およびフレッシュガスを吸気に供給しない(リザーバーに貯めた分からの供給とする)仕組みをとっている。

low TVとPEEP
low TV + PEEPについての研究は集中治療室での成人患者を対象としたものから始まり、小児でのRCTはないため、成人の結果を応用しているにすぎない。
また小児の疾患であるRDSでは、HFOによる換気が予後良好であることが証明されているが、RDSではない小児についての呼吸管理で何がよいかについての研究は乏しく、結果として成人のRCTを流用している。

強制換気 PCV vs VCV
PCVのよい点は多少のリークがあってもTVを送ることができ、かつ最大吸気圧が低い点である。これに対してVCVの利点はTVが保証できる点である。しかし圧は肺のコンプライアンス次第であり、圧損傷を起こすリスクがある。
この2つの呼吸器設定のよい点をとったbest of both ventilation(メーカーによってこの呼吸設定の呼び方がまちまちなので、適切な名前がないためこの名前にしたと)を用いることも1つの選択肢である。

補助換気
CPAPと比較してPSVの方がガス交換が良いため、概ねPSVを用いる。新生児ICUでの報告では補助呼吸患者の60%がPSVを使用している。成人と比較して小児ではトリガーを1l/minと低く設定する方がよい。

適切なPEEPはいくつか
手術室では無気肺の予防のためにほとんどの症例でPEEPが用いられているが、適切なPEEPについての研究は少ない。1つの研究ではルーチンに5mmH2OのPEEPをかけてそこから調節することで無気肺を防げたとの報告がある。PEEPの相対的近畿は頭蓋内圧亢進、hypovolemia(これは出血を意味しているのか脱水を意味しているのか?は不明)、気管支肺瘻である。

死腔の管理
死腔/TVを Vd/Vtを表すとして、この値が増加すればするほどEtCO2とPaCO2が乖離するため、CO2増加の発見が遅れる。体格の小さい小児ではディバイスの死腔は無視できないため注意する。いわゆるLコネクタは8mlである。人工鼻(小児用)は9mlである。

適切な呼吸器設定のモニタリング
もっとも正確なモニタリングは血液ガスであり、gold standardである。そうはいっても手術をうける小児が全員A-lineを取るわけではないため、別のモニタリング方法でも評価する必要がある。
1) FiO2とPaO2(SpO2)の関係 小児の場合はFiO2 21%以上であれば、SpO2は100%となるため、100%以下であればなんらかの治療(処置)が必要となる。シャントの存在はFiO2とSpO2の乖離を増強するため、(肺切除手術の手術経過をみるとよくわかる)、このシャントを改善させるよう処置を行う。SpO2が下がったからといって、すぐにFiO2をあげるのは間違いである。
2) PaCO2の調整 死腔が多いほど、EtCO2とPaCO2は乖離する。小児では死腔が相対的に多いため、正確なPaCO2を管理しなければならない症例ではA-lineが必要となる。
3) TVのモニタリング
呼気のvolumeで評価が良い。肺のコンプライアンスについては動的コンプライアンスと静的コンプライアンスがあるが、小児でも静的コンプライアンスの方がより肺の状態を反映している。



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麻酔器の仕組みをちゃんと勉強しなければいけないなーと反省した。

2016/07/24

Management of Opioid abuse and addiction


2016年3月のNEJMに出ていた慢性疼痛に対してのオピオイドの話。
アメリカでは深刻みたいだ。

Opioid Abuse in Chronic Pain — Misconceptions and Mitigation Strategies
N Engl J Med 2016; 374:1253-1263March 31, 2016
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra1507771#t=article


疫学
30%以上のアメリカ人が急性もしくは慢性痛の経験があるとされており、高齢者においてはその割合は40%となる。1年間で発行されるオピオイドの処方箋は2億4500万枚である。このうち65%は短期間の疼痛緩和のためであるが、4%は長期間に渡ってオピオイドが処方されている。しかし慢性疼痛に対しての長期に渡るオピオイドの効果については疑問視されている。
近年オピオイドの過量服用による死亡例が報告されており、過量服用患者の37%がオピオイドによるものとされている、またオピオイドの流用(処方された以外の患者が使用する)が行なわれている。こうした事実は今まで明らかにされて来なかったが、処方する医療関係者はオピオイドのリスクと管理について(特に慢性疼痛に対して)の正しい知識を得てオピオイドに対する誤解を解くべきである。
オピオイドに関する誤解(以下の文章はすべて間違いということ)
・中毒(addiction)は身体依存は耐性の獲得と同様である
・中毒は薬の組み合わせを間違っただけである
・痛みを感じている状態ではオピオイド中毒は起きにくい。
・特定のオピオイドの長期間の使用のみが中毒を作り出す
・ある性格をもった患者のみが中毒に罹りやすい。中毒になりやすい性質・性格がある
・薬物療法はヘロインやオピオイドの中毒者の代替品である

薬理作用
オピオイドはμ受容体に働きかけることで鎮痛作用をもたらすが、それと同時に報酬効果(reward effects: ある特定の行為が快感をもたらすことの学習?と言ったらいいのだろうか)も生み出す。この報酬効果はオピオイドの投与経路によって変化し、より早く脳に入った時に強くでる(つまり静脈投与で最もその効果が強くなる)。
身体依存と中毒(addiction)の違いは、身体依存が投与期間と量に相関して必ず出現するものであるのに対して、中毒は数%でしか発生せず、その発生機序については不明な点が多い。通常数ヶ月の暴露のあとに緩徐に出現することが多く、再発しやすい。
耐性はオピオイドの力価が低下するもので、同じ鎮痛を得るために投与するオピオイド量が10倍以上となることもある。鎮痛作用に対する耐性はより早い時期に出現するが、呼吸抑制に対する耐性は遅延性に出現するため、同程度の鎮痛のために投与量を増加させると呼吸抑制が出現するという結果となる。
また慢性疼痛に対するオピオイドの投与は痛覚過敏を形成することがある。この場合の対応はオピオイドの漸減と中止である。

オピオイドの中止によって、耐性や身体依存は数週間で消失するが、中毒に関連する脳内の変化は1年以上保持される。このため、中毒患者が再びオピオイドを始めたときにその投与量が多すぎて過剰服用となってしまうことがある。過量服用のリスクはモルヒネ換算で100mg/day以上の服用であり、こういった患者に対しては別の治療法を考える必要がある。

結論としての今後の対策(conclusionに載っていたことだが)
慢性疼痛に対して8週間以上にわたる処方を行わないこと、
医学部での慢性疼痛の知識、オピオイドの教育を強化すること
ペイン分野の研究を発展させること


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日本では慢性疼痛にオピオイドはほぼ使われていないから、こういった状況とは無縁...と思っていたが、そんなこともなかった。
痛みは難しい。