2016/07/24
Management of Opioid abuse and addiction
2016年3月のNEJMに出ていた慢性疼痛に対してのオピオイドの話。
アメリカでは深刻みたいだ。
Opioid Abuse in Chronic Pain — Misconceptions and Mitigation Strategies
N Engl J Med 2016; 374:1253-1263March 31, 2016
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra1507771#t=article
疫学
30%以上のアメリカ人が急性もしくは慢性痛の経験があるとされており、高齢者においてはその割合は40%となる。1年間で発行されるオピオイドの処方箋は2億4500万枚である。このうち65%は短期間の疼痛緩和のためであるが、4%は長期間に渡ってオピオイドが処方されている。しかし慢性疼痛に対しての長期に渡るオピオイドの効果については疑問視されている。
近年オピオイドの過量服用による死亡例が報告されており、過量服用患者の37%がオピオイドによるものとされている、またオピオイドの流用(処方された以外の患者が使用する)が行なわれている。こうした事実は今まで明らかにされて来なかったが、処方する医療関係者はオピオイドのリスクと管理について(特に慢性疼痛に対して)の正しい知識を得てオピオイドに対する誤解を解くべきである。
オピオイドに関する誤解(以下の文章はすべて間違いということ)
・中毒(addiction)は身体依存は耐性の獲得と同様である
・中毒は薬の組み合わせを間違っただけである
・痛みを感じている状態ではオピオイド中毒は起きにくい。
・特定のオピオイドの長期間の使用のみが中毒を作り出す
・ある性格をもった患者のみが中毒に罹りやすい。中毒になりやすい性質・性格がある
・薬物療法はヘロインやオピオイドの中毒者の代替品である
薬理作用
オピオイドはμ受容体に働きかけることで鎮痛作用をもたらすが、それと同時に報酬効果(reward effects: ある特定の行為が快感をもたらすことの学習?と言ったらいいのだろうか)も生み出す。この報酬効果はオピオイドの投与経路によって変化し、より早く脳に入った時に強くでる(つまり静脈投与で最もその効果が強くなる)。
身体依存と中毒(addiction)の違いは、身体依存が投与期間と量に相関して必ず出現するものであるのに対して、中毒は数%でしか発生せず、その発生機序については不明な点が多い。通常数ヶ月の暴露のあとに緩徐に出現することが多く、再発しやすい。
耐性はオピオイドの力価が低下するもので、同じ鎮痛を得るために投与するオピオイド量が10倍以上となることもある。鎮痛作用に対する耐性はより早い時期に出現するが、呼吸抑制に対する耐性は遅延性に出現するため、同程度の鎮痛のために投与量を増加させると呼吸抑制が出現するという結果となる。
また慢性疼痛に対するオピオイドの投与は痛覚過敏を形成することがある。この場合の対応はオピオイドの漸減と中止である。
オピオイドの中止によって、耐性や身体依存は数週間で消失するが、中毒に関連する脳内の変化は1年以上保持される。このため、中毒患者が再びオピオイドを始めたときにその投与量が多すぎて過剰服用となってしまうことがある。過量服用のリスクはモルヒネ換算で100mg/day以上の服用であり、こういった患者に対しては別の治療法を考える必要がある。
結論としての今後の対策(conclusionに載っていたことだが)
慢性疼痛に対して8週間以上にわたる処方を行わないこと、
医学部での慢性疼痛の知識、オピオイドの教育を強化すること
ペイン分野の研究を発展させること
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日本では慢性疼痛にオピオイドはほぼ使われていないから、こういった状況とは無縁...と思っていたが、そんなこともなかった。
痛みは難しい。