2019/07/25

実証分析入門




著者は法学分野でのデータ分析を主にしている先生の様であるが、

因果とは何かについて考えさせてくれる。

初学者が陥りそうな R2を高めるために多変量にたくさん変数を
入れてみることに意味があまりないこととか、いろいろ面白い。





Is RBC transfusion the risk or a result of prognosis?


術中の輸血と、周術期合併症、予後についての論文は山ほどあるのだが、
統計学や研究デザインの手法を学ぶと、
本当にこれは因果を説明するImpactのある論文なのだろうか?と疑問に思うことが多々ある。

You can read a lot of articles that mentioned the relationship between intraoperative blood transfusion and mortality. But I'm suspicious those articles have the power to prove the cause and effect after learning biostatistics and study design.


Blood Transfusion and Outcome After Transfemoral Transcatheter Aortic Valve Replacement
https://doi.org/10.1053/j.jvca.2019.06.038
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053077019305920


フィンランドのNational Databaseを使った後ろ向きコホート研究。
術中のRBCの輸血が予後に影響を与えているかについての調査。

数としては、2130人を対象とし、293人(16.1%)がRBCの輸血を受けていた。
RBCの輸血をされた群では、30日死亡率が高く、AKIのリスク、RRT導入のリスクがそれぞれ高かった。また入院期間も長いという結果となった。

元々の背景としてRBC輸血を受けている群が貧血傾向があり、アスピリンの内服率もたっ買う、EuroScoreも高い傾向にあった。
そんな訳で、propensity scoreを使用し、背景を揃えた人数 281 vs 281人で比較したところ、やはり死亡率や合併症発生率が高いという結果となった。


しかしである。

そもそもpropensity matchで調整されているのは、背景因子のみである。
術中の因子(手術時間や、出血量)については、全く調整されていない。

この論文の結果から言えることは、輸血をした群では予後が悪くなる可能性がある
ということ。しかし、輸血を制限した方が、予後が改善するとは言えない。
背景因子が同一であったとして、手術の手技や困難さは同一ではないだろう。
そこを揃えないで、輸血が悪いと言っても、出血しているのに輸血しない方がいいのか?
という疑問には答えてくれない。
相関を見ているけど、因果については証明できていない


臨床研究において、因果まで考えた研究デザインや研究をしている論文がどれほどあろうかと思ってしまうが、特にこの輸血分野ではそれを強く感じる。
例えば、手術時間や穿刺部位からの出血を説明因子として、目的因子を30日死亡率にした方がよっぽど納得のいく結果が得られるのではないだろうか。


と昼休みに呟いてみた。

2019/07/18

ICU diary does not improve PTSD in ICU



Those ICU topics are impressing.


ICU diary improves PTSD in ICU
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2738291


The family visit will affect delirium in ICU

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2738289

The conclusion: a flexible family visitation policy, vs standard restricted visiting hours, did not significantly reduce the incidence of delirium.

Silence at night significantly improve delirium in ICU, I guess.


Association of Lifestyle and Genetic Risk With Incidence of Dementia
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2738355

Both an unfavorable lifestyle and high genetic risk were significantly associated with higher dementia risk.


2019/07/15

Management of the dialysis patient in ICU


透析患者のICU管理のReview

Management of the dialysis patient in general intensive care.
Br J Anaesth. 2012 Feb;108(2):183-92. doi: 10.1093/bja/aer461. Epub 2012 Jan 4.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22218752

研修医の時のノートに書いてあった論文。

透析患者において、心疾患と敗血症がICU入室の最も頻度の高い原因である。
イギリスのICUに入院した患者のうち、3420/276731が透析患者であり、ICUに入院した透析患者は平均で32日滞在した。
またオーストラリアの研究では、透析患者の7年間の追跡で20%がICUを経験している。

ICU入室中のdry wrightについて
(ここがもっと知りたかったのだが、引用文献が少ない...)
透析患者に心疾患が起きる原因として、血管内volumeの過多がある、これはNaと水分の貯留によって起こる。しかしICUに入院するようなcritical illnessの状態において、dry weightを保つことは望ましくない。血管透過性の更新により大半の水分が間質に移動しているため、dry weightまでの急激な管理は合併症を引き起こす可能性がある。

心疾患および心疾患による突然死は透析患者の死因の43%を占める第一位の原因である。またICUに入室する透析患者はICU入室前に心肺蘇生を受けていることが非透析患者に比べて2倍多い。
心筋肥大や電解質異常がその原因として研究されているが、心停止のリスクを防ぐためのの透析管理方法についてガイドライン上は明確に提示されていない。
(2012年の時点では)
ICUを埋め込んだ方が死亡率が低いとする研究がある。

心筋逸脱酵素についてもいくつかの研究があるが、敗血症になった時にトロポニンIが >0.2 mg/mlよりも高い場合、短期死亡リスクおよび長期死亡リスクがそれぞれ5.13、 5.9上昇するという研究がある。

敗血症と透析
透析患者における敗血症時の循環管理についてのRCTはほとんどない。
透析用のシャント血管からの感染、肺炎、蜂窩織炎、菌血症がよくみられる。また頻度は高くないが、膀胱膿症(pyocystis)も鑑別として重要である。

透析患者で避けるべき鎮静・鎮痛
ミダゾラム、モルヒネは避けるべき。

など。

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2012年の時点のreviewなので、その後の論文も探そう。

2019/07/14

Should warfarin be taken after stroke with Afib?


Af合併で脳卒中を起こした後にワーファリンを飲ませるべきかどうかのstudy



Real world effectiveness of warfarin among ischemic stroke patients with atrial fibrillation: observational analysis from Patient-Centered Research into Outcomes Stroke Patients Prefer and Effectiveness Research (PROSPER) study.
BMJ. 2015 Jul 31;351:h3786. doi: 10.1136/bmj.h3786.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26232340


デザイン
前向き観察研究 (コホートと呼んでいいのか?)

対象
2009-2011にGWTG-stoke programに登録された病院で発症した脳卒中の患者
I:脳卒中発症後にワーファリン投与を開始された患者 11039 (88%)
C: 脳卒中発症後にワーファリン投与が開始されなかった患者 1513 (12%)
O: 非入院でいた期間 alive at home without recurrent stroke、およびMACEの発生率。

もともとの母集団は62997人であるが、そのうち、もともとAfibと診断されてワーファリンを内服していた患者(14801人)、抗凝固薬が禁忌(13991人)、NOAC内服、データ欠損などによって42871人が除外され、残った12552人を調査している。

GWTG-stoke programの標本集団の外的妥当性は他の論文で証明済みとのこと。

prevalent use vias :観察期間開始前に薬の内服の有無が混在することによるバイアス。このバイアスを避けるために、もともと内服を行なっている患者を除外することが多い。

統計
傾向スコアマッチングを行なっている。
Inverse-probability score-based weighted methodsを使用。
ワーファリン処方群と非処方群での背景因子が異なるため、それを調整するために傾向スコアの逆数を用いて重み付けをする方法のこと。 
この方法だと、患者数自体が減ることはない。
Table 1では背景因子位ついてStandardized differenceを計算している。
    Standardized differenceの計算方法についてはこのサイトに載っていた。
 http://epigraph.jugem.jp/?eid=307
また追跡期間と在宅期間の比の対数を補正するために負の二項分布を使用したと。
 (負の二項分布はわかるが、この補正(offset)のために使用するというところが具体的にどうしたのだろうか)
死亡、MACEの発生にはCox比例ハザードモデルを使用。

結果
ワーファリン処方された群の方が、在宅期間が短く、脳卒中の再発は少なく、死亡率も低かったと。
しかし、当たり前だがワーファリン非処方の群にはそれなりの理由がある。DAPTを行なっていた群が圧倒的に多い(90%で1つ以上の抗血小板薬を内服)それを傾向スコアを用いて補正した上でワーファリン処方群の方が良いとの結論である。


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もともとDAPTを内服していた患者が、脳梗塞になり、Afibも発見された時に、3剤併用療法を行うべきかどうかはこの研究ではなんとも言えない。
確かに脳梗塞は防げるかもしれないが、消化管出血や、脳出血は増えるかもしれない。
それを、脳梗塞+Afibになったら絶対ワーファリン追加すべき!というのは乱暴だろう。

この結果を受けて次に研究を行うとすれば
もともとDAPTを行なっている患者が、Afib+脳梗塞になった場合
3剤併用 VS  DAPT VS  1剤抗血小板+抗凝固
でどの群が最も合併症および死亡率が低いかを検討する必要がある。



 



2019/07/13

Mechanism of oxygenation impairment during anesthesia


Oxygenation Impairment during Anesthesia: Influence of Age and Body Weight.


Anesthesiology. 2019 Jul;131(1):46-57. doi: 10.1097/ALN.0000000000002693. PubMed
PMID: 31045901.
Hedenstierna G, Tokics L, Scaramuzzo G, Rothen HU, Edmark L, Öhrvik J.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31045901



高齢者や肥満患者では、麻酔導入により酸素化能が低下することが知られているが、そのメカニズムについては明らかではない。
よって今回、そのメカニズムを明らかにすることを目的に、80人の患者を対象にどのようなメカニズムによって(シャントなのか、V/Qミスマッチなのか)を明らかにすべく、不揮発性ガスの排出量の計測とCT撮影を行い、その結果を評価した。

デザイン:2施設前向き観察研究

統計
重回帰分析

結果
 P/F ratio および Log shunt、 log low Va/Qの3つであり
実際にP/F ratioは麻酔導入後に年齢、BMIと相関して減少していた。
シャントについては高齢者、BMIの高い患者でr2が高く、またVa/Qミスマッチは年齢と相関を認めた。

評価項目として、年齢、BMI以外に、性別、FVC%の程度についても評価している。

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前向きの観察研究ではあるが、介入が多い。
この研究への同意者(もともと手術を受ける予定の患者)に対して、
awakeのうちに、血液ガスとCTを撮影し、その後、麻酔を導入、そして麻酔導入後に再度血液ガスとCTを撮影し、手術を行なっている。
おおよそ30分程度かかるこの検査を実施は結構な労力であろうに。
結果として、年齢という要因と、肥満という要因における麻酔による呼吸機能低下のメカニズムが異なることがわかった。

しかし、その結果をどう治療に活かそうか。


variance inflation factor (VIF)
最小二乗回帰分析における多重共線性の深刻さを定量化したもの。 推定された回帰係数の分散が、多重共線性のためにどれだけ増加したかを測る指標
と言われてもよくわからんが、例えば、多変量解析を行なった時に変数X1と変数X2が多重共線性を持っているか?怪しかったとする。その時に、このX1とX2のVIFを計算することで、一般的にVIF統計量が10以上であれば、多重共線性が存在している可能性がある。

VIF = 1/(1-相関係数^2)である。





モデルの適合度の検定


モデルの適合度についての検定


ロジスティック回帰モデルの場合

    Hosmer-Lemeshow goodness-of-fit test
    この検定で注意しなければならないのは、帰無仮説:現在当てはめているモデルが正しいということである。
つまり、p値を見て0.05よりも大きければ、モデルの適合度が良いということである。

検定の中には、帰無仮説が通常の想定とは逆の発想の元に設定されているものがあるため(等分散性の検定もその一つ)、注意が必要。

Rで実装する場合

library(ResourceSelection) 
result1 <- glm(aaa~bbb+ccc, data=sampledata)
hoslem.test(x  result1 $y, y = fitted(result1))


多変量回帰分析モデルの場合

   Akaike information criterion  Bayesian information criterion

  この値が小さい方が、モデルの適合が良好であると言える。

Rで実装する場合簡単

result1 <- lm(aaa~bbb+ccc+ddd, data=sampledata)
extractAIC(result1)



2019/07/06

A new cardiovascular score for pre-operative patients


RCRIに代わる新しいスコアリングの話。

A New Index for Pre-Operative Cardiovascular Evaluation
J Am Coll Cardiol. 2019 Jun 25;73(24):3067-3078.


【背景】
現在非心臓手術の術前心合併症リスク評価スコアとしては、RCRIとNSQIPがある。RCRIは1999年に設定されたが、その後の術式の多様化に伴う予測正確性は低いとの報告がされている。NSQIPは正確ではあるが、スコアリングシステムが複雑であり、患者のカルテを見ただけではリスクは把握できない。
本研究の目的は、RCRIに変わる簡便な心合併症リスク評価スコアを開発することである。

参考:RCRIスコア
高リスク手術 
冠動脈疾患の既往 
心不全所見 
脳血管障害の既往
インスリン依存性糖尿病
腎不全(Cr > 2.0mg/dL) 

【一般的なリスクスコアの開発方法】
1)Derivation set  1000-5000人ほどのコホート集団を対象として、ロジスティック回帰分析を行い、リスク項目を洗い出す。(結果から因子の洗い出し)
2)リスク項目からリスクスコアを作成する。
3)Validation set  作成したリスクスコアを別の集団に当てはめて実際にその集団の術後心合併症をどれだけ予測できたかを評価する(スコアの精度の検証)

New index CVRI
(それぞれ1点加算)
年齢 75歳以上
心疾患の既往 
狭心症・呼吸不全の症状
Hb < 12
血管手術
緊急手術

【本研究】
1)2016-2017年に米国の単施設で手術された40歳以上の成人での手術(3284人が対象) 内イベント発生率は38(1.2%)
2)Table1にまとめる独立したリスク因子のピックアップ
3)2008-2012年のACS-NSQIP(米国手術登録データベース、日本のNCDと同一?)のデータを用いて新スコアが30日MACEをどの程度予測できるかについて追試験

【結果】
新しいリスクスコア(CVRI)はRCRIと比較してより術後心合併症の予測精度が高く、NSQIPと比較して差はなかった。CVRIはより簡便で正確な予測スコアとして使用可能である。



これでICU入室選定を決定したら、合併症の早期発見、予防につながるだろうか?