2019/03/29

心臓手術における吸入麻酔とTIVA


今週のNEJMの記事
もう結論は出たのかしらと思っていたのに、意外にもNegative study

今度の勉強会はこれにしよう。

Volatile Anesthetics versus Total Intravenous Anesthesia for Cardiac Surgery
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1816476


【背景】
吸入麻酔の心筋保護効果は広く知られており、そのメカニズムとしては、G-protein受容体、細胞内シグナル、遺伝子発現、Kチャネル、ミトコンドリア機能への影響が研究されている。また動物実験では心筋梗塞の範囲を減少させることが報告されており、またいくつかのRCTで心筋障害のバイオマーカーが減ることが示されている。米国、欧州のコンセンサスも吸入麻酔の使用の効果を認めている。しかし、RCTの中には吸入麻酔の有効性を示せなかったものもあり、吸入麻酔優位性の問題に完全に決着がついたとは言えない。
吸入麻酔の使用が心臓手術の予後を改善するということに決着をつけるために今回のRCTは計画された。
研究デザイン:他国他施設 RCT
P: 予定CABGを受ける患者 (on pump off pumpどちらも含む)
I : 吸入麻酔の使用 次のいずれかを満たすよう設定:1) 1%以上の吸入麻酔薬を30分以上使用、2) CPBの15分前までに吸入麻酔をoff、3) 少なくとも3回のwash in, wash outを繰り返す。
C : 吸入麻酔不使用
O: primary outcome 1年死亡率  secondary outcome  30日死亡率  サンプルサイズは1年死亡率が1%異なる(2% vs. 3%)との推定のもと、各群5300人という数値が得られた(全体で10600人)。

【結果】
5400人の結果が得られたところで、研究は打ち切られた(このまま続けても有意差は出ないとの判断のもと)。2.3%が割り付られた群とは逆の治療がおこなれていた。全体の36%がOPCABGだった。吸入麻酔群の83.2%はセボフルラン、TIVA群の87.7%はプロポフォールを使用。患者属性に2群で差はなかった。Primary outcomeは2.8% vs. 3.0% で差を認めなかった。Secondary outcomeにも差を認めた項目はなかった。

【考察】
先行研究と比較して差を認めなかった原因として、OPCABGが36%含まれていたこと(OPCABGだと心筋障害が起きにくい)、吸入麻酔使用群の条件が動物実験などの純粋な環境に比べて甘い、過去のtrialはサンプルサイズが小さくType I errorのリスクがあり間違っていた、可能性が考えられる。
CABG以外での心臓手術での吸入麻酔の有用性はどの研究でも示されていないらしい。

【私見】
参加者が全体に健康。EF がほぼ正常でICUにも1日しか滞在していない群を対象にしたら差は出なさそう

2019/03/17

TAVR(TAVI) vs SAVR グラフの見せ方



今週のNEJMのHpにパッと目をひく論文と図があった。
Transcatheter Aortic-Valve Replacement with a Balloon-Expandable Valve in Low-Risk Patients
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1814052
















赤がSAVR で、青がTAVR 。低リスクの患者に対するTAVRの死亡率、脳卒中発生率、再入院率についてのTime-to-Event Curveなのだが、
これを見ると、わぉ! と思う。


しかし、だ。

図全体を見ると、













あれ、100%スケールで見るとインパクトがそれほどないように見えてくる。。。
Surgicalでは、周術期の合併症が高いが、それ以降にはほとんど合併症が起きていない。
それに対して、TAVRのは8ヶ月を超えたあたりから、右肩上がりにじわじわと上がっている。
12ヶ月では15.1 VS 8.5 だが、2年後、5年後、10年後ではこの差はもっと縮まるのだろうか。
そして生体弁の寿命と言われる10-15年後にはどうなっているのだろうか。

しかしトップページに、このいかにも差がありますという図のみを持ってくるのはあこぎな感じがします。。。


兵法 三十六計


大学院での授業があり、4月から新しいことが始まるのだとしみじみ。

兵法 三十六計を読み終えた。(原文ではなく、総説)

孫子の兵法が、1つ1つの戦争というよりは、いかに自国を維持もしくは拡大するか、という長期的な視点で書かれているのに対して、
三十六計はもっと智謀策略の方法論的な話である。

面白かったが、孫子の兵法以上に「これは誤用すると、『策士策に溺れる』というやつだな」と感じた。

そもそも、三十六計あるが、全てはEmpilicalなものであり、Statisticなものではない。
三十六計の中には、窮鼠猫を嚙むから敵は追い詰めてはならず、逃げ道を作っておけという教訓があるかと思えば、将来の復讐されるのを防ぐために根絶やしにした方がいいという教訓があり、結局は状況に応じて(現実を見極めて)使い分ける事しかないのだ。

因子分析で、この36計の背景にある因子を探ることができるんではなかろうか
と考えたり。

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時間を見つけて、中国古典を読み続けようとは思うのだが、
次はもう少し穏やかな菜根譚にしようかな。

2019/03/16

VitB1, VitC and steroid save patients with septic shock?


VitB1, VitC, steroidの治療について


Hydrocortisone, Vitamin C, and Thiamine for the Treatment of Severe Sepsis and Septic Shock: A Retrospective Before-After Study.
Chest. 2017 Jun;151(6):1229-1238.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27940189     (未読 20190316)

Chestでの後ろ向き研究。はじめにこの治療法が有効であると報告した研究みたいだ。
投与量としては、ビタミンB1 200mg(12時間ごと)、ビタミンC 1500mg(6時間ごと)、ハイドロコルチゾン50mg(6時間ごと)で、この治療により劇的に臓器障害が改善したと。


<Review>
Ascorbic acid, corticosteroids, and thiamine in sepsis: a review of the biologic rationale and the present state of clinical evaluation
BMC 2018 22 283
https://ccforum.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13054-018-2217-4


敗血症患者に対するビタミンB1、ビタミンC、ステロイドのカクテル投与についての総説。現在進行中のACT trialについての解説を含めている。

そもそもビタミンB1はTCA回路を回す上でピルビン酸をアセチルCoAに変換する補酵素であり、これが枯渇すると、いくら酸素があっても効率よくエネルギーを産生できない。
さらにもう一つビタミンB1の重要な役ありとして、ペントースリン酸回路を回す上で必要となるトランスケトラーぜの活性化に必要であると。
ペントースリン酸回路はNADPHを生成し、このNADPHがグルタチオン回路に働いてH2O2といった酸素による有害物質の解毒に関わっている。
また、NADPHは脂肪酸、ステロイドの合成にも必須の物質である。
(なんだか大学の生化学みたいな話だな)

そこでICUに入室するような重症患者ではビタミンB1が枯渇しやすく、ビタミンB1を投与によって臓器障害が改善するという報告がなされ始めた。が、今までに行われた唯一のRCTは88人のLactate 3mmol/L以上出会った敗血症患者に対して行われ、結果としては乳酸クリアランスを改善することはなかったようだ。しかし、もともとビタミンB1の欠乏があった患者では効果が認められた。

ビタミンCには抗酸化および細胞のアポトーシスを防ぐ効果があり、重症患者では急激な低下が認められる。ビタミンCの投与のメリットは10年程度前から言われており、その効果は量依存性であった。high dose 25mg/kg 6hqで、ビタミンC投与群のカテコラミン使用料と死亡率が減ったとの報告がある。
またビタミンCには血糖の上昇効果もあるらしい。(へえ)

ACT trialは現在進行しているRCTで2019年6月ごろまで行われている。
投与量は B1 100mg  C 1500mg ハイドロコルチソン 50mg を1日4回投与を4日間継続する。
でSOFAスコアがどのように改善するかを見るとのこと。


2019/03/10

The art of war


移動中などで細切れではあったが、孫子の兵法を読み終えた。

新訂-孫子-岩波文庫-金谷-治


塩野七海さんという小説家の作品が好きで、若い頃にマキャベリの君主論を読んだことが
あったが、それを思い出した。
戦争をどうするかという話と、統治をどうするかという話は少し論点が違うかもしれないが、「敵、味方を含めて人はどのようにしたら動くのか」という点を論じている点は似ているのかもしれない。

日々の仕事に役立つかは別の話だが、おもしろかった。

2019/03/06

食道圧からみる最適PEEP



JAMAに掲載された論文。あとで読もう。

Effect of Titrating Positive End-Expiratory Pressure (PEEP) With an Esophageal Pressure–Guided Strategy vs an Empirical High PEEP-Fio2 Strategy on Death and Days Free From Mechanical Ventilation Among Patients With Acute Respiratory Distress Syndrome
A Randomized Clinical Trial
JAMA. 2019;321(9):846-857.
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2725206

ARDS患者に対する食道圧を指標としたPEEP設定。
結果に有意差はでなかったみたいだ。

2019/03/04

流体力学とRene Gruau


とあるきっかけで流体力学を勉強しているが、

Rene Gruauという画家の作品がまさに流体力学の美学である。
クリスチャンディオールのデザイン画を手がけた人物らしいのだが、
線が美しい。 しかも流線が。

http://www.gruaucollection.com