2015/10/31

小児の頭部外傷ガイドライン2012 麻酔管理

2012年にでた小児頭部外傷(traumatic brain injury TBI)のガイドラインの抜粋
Pediatric anesthesiaに掲載されていた。麻酔管理に関係する部分。
成人はこちら→ http://mmarico.blogspot.jp/2015/10/tbi-perioperative-management.html

Update on the 2012 guidelines for the management of pediatric traumatic brain injury – information for the anesthesiologist

TBIの2 phase 
1) 第一期:組織の機械的損傷。受傷直後から起こる。
2) 第二期:遅発性の損傷。炎症反応や興奮毒性による浮腫、ICP上昇による損傷

TBIの治療は第二期の損傷をいかに防ぐかにある。

1) 頚椎保護
TBI患者では頚椎損傷を合併していることが多い。12歳未満では頚椎の最大可動部はC1-3であり、12歳以降ではC5-6となる。6ヶ月未満の乳児では頭部と頸部を固定する必要がある。6ヶ月以降では頭部のみの固定でよい。挿管時にはrigid collarを使用すべきである。

2) 気道管理
術前にGCSに基づき、GCS < 9であれば確実な気道確保を行う。口腔airwayは安全に用いることができるが、nasal airwayは顔面外傷の場合は禁忌である。cricoid pressureは酸素化の妨げになるため行うべきではない。GCS < 9もしくは急激な意識の低下を認める場合は挿管を考慮すべきであるが、病着までの挿管はとごには影響を与えず、メリットはない。

3) 麻酔薬剤
etomidateとチオペンタールは信頼性の高いエビデンスがある。
etomidateは血圧を下げずにICPを下げる効果がある。
バルビツレートは脳血流もICPも減少させ、脳灌流圧(CPP)には影響を与えない。
プロポフォールは成人のTBI麻酔と異なり、2012年のガイドラインでは避けるべきとされた。これはPISの症例報告が相次いだことによる。
ケタミンはもともと脳圧亢進作用があるとされてきたが、難治性の脳圧亢進状態においてはケタミンによる脳圧減少作用が認められている。
TBI患者で吸入麻酔薬と静脈麻酔薬による予後の比較をした論文はない。
筋弛緩薬としてサクシニルコリンは使用しないほうがよいが禁忌ではない。サクシニルコリンを避ける理由として、未診断の筋疾患では高Kにより心停止になるリスクがあること、またfasciculationによりICP亢進のリスクがあるためである。
ステロイド投与は効果がない。(これは成人も同じだ)

4) 循環動態・脳血流管理
小児では脳血流自動調節能の破綻と5パーセンタイル以下の血圧の低下が6ヶ月後のGOS予後不良の独立因子である。受傷後6時間以内の低血圧は最大の予後不良因子である。
小児適切なCPPはよくわかっていないが、CPPが40以下では救命率0%であった。6−17歳ではCPP > 50に保つこと、0-5歳ではCPP > 40 に保つことが求められる。MAPは75パーセンタイル以上に保つことが予後改善につながる。

5) モニタリング
ICPと血圧のモニタリングが望ましい。 ICP > 20-25となった時、治療介入が必要である。
PbtO2(脳組織酸素圧) > 10 mmHg とすることが望ましい。

6) 頭蓋内圧亢進に対する治療
高浸透圧治療では高浸透圧生食(3%生食)が望ましい。 ボーラスの場合は6.5-10ml/kgを投与する。持続の場合は0.1-1.0 ml/kg/hを投与する。
小児ではマンニトールを支持するエビデンスが少なく薦められない。
低体温療法によるICPの低下が期待できる。低体温は24時間以上を持続し緩徐な復温(0.5度/h以下)が求められる。復温が急激であると、ICPがリバウンドすることがある。
過換気は多くの施設でいまだに行われているが、PaCO2が25-35mmHgとなると60%の症例で局所虚血が起こるため、避けるべきである。PaCO2 < 30mmHgとなるような過換気は避けるべきである。
ICPコントロールが上記の治療や手術でも上手くいかない場合にはバルビツレートの使用が推奨されている。しかしバルビツレート使用により循環動態は不安定となりドパミン等が必要となることがある。
開頭減圧術は、意識状態の悪化、ヘルニア兆候、薬物治療抵抗性のICP上昇があった場合に推奨される。受傷後70分以内の手術はICPコントロールに効果があったとの報告もあるが、手術の適切なタイミングは不明である。
CSFドレナージはICP管理のために有効である。






2015/10/25

Be in the past


とりとめもないこと。

医学部から研修医時代の自分のブログを久しぶりに読んだ。
今の自分よりよっぽど賢く、いい人だった。

自分が何か、「すれた」ような感覚に陥った。

明日からまた仕事。
仕事は嫌いではないし、むしろ好きだが、
あのころのような「前向きさ」をもう持ち合わせていない。

自分のせいで苦しいことも多々ある。

静かに生きよう。

成人の頭部外傷、麻酔管理


頭部外傷(traumatic brain injury TBI) の麻酔

TBIで最も頻度が高いのは脳挫傷。診断は脳浮腫の存在と血腫の除外である。
次に頻度が高いのが血腫(硬膜外、硬膜下、皮質下)。皮質下血腫では急激な意識レベルの低下を認める。穿通性頭部外傷では特徴的な経過を取ることが多い。痙攣が受傷後長期にわたって続くことがある。
病態として、初期には神経損傷が際立ち、次に脳虚血が出現する。よって低血圧と低酸素を防ぐことがTBI患者の治療目標である。脳虚血が出現するメカニズムは脳血流と代謝バランスの変化により、脳の自動調節能が破綻する。その結果CO2に対する脳血管の反応が失われ、脳浮腫を引き起こすというプロセスである。

脳灌流圧の維持
CPP = MAP - ICP であり、CPPを60以上に維持することが求められる。そのためには血圧を保つこと、ICPを低くすることが求められる。
マンニトール
 0.25-1g/kgでのボーラス投与により、15分後よりICPを下げる。2-6時間効果が持続する
 ICP管理のために使用する場合は持続投与ではなく、ボーラスとして用いるべき
 マンニトール投与により、ヘルニアが悪化する場合もある。血漿浸透圧が300-320の時
 最も効果を発揮する。

周術期管理
初期から高血糖(200mg/dl)以上が認められると予後不良である。強化インスリン療法は低血糖のリスクもあるため、マイルドな管理が望まれる。
TBIではSIADHやcerebral salt wasting syndromeにより低Naになりやすく、低Naはさらなる浮腫や痙攣のリスクとなるため補正する。
高Naは尿崩症の合併やマンニトール投与、経管栄養により起こしやすい。尿崩症の治療にはデスモプレシンを使用する。
低KもSIADHやCSWの結果として起こりやすい。また過換気やインスリンの投与によりKの細胞内移動が進みさらに低Kとなることがある。
TBIにより血漿中Mgは1/2まで低下する。MgはNMDAアンタゴニストであり、後シナプス細胞受容体でグルタミン酸の神経毒性を緩徐にする働きを持っている。しかしMgの予防的投与には議論の余地がある。
女性に比べて男性のTBIではCSFのグルタミン酸や乳酸の値が上昇する傾向にあり、プロゲステロンが関与しているのではないかとされている。
TBI患者に対してプロゲステロンを投与する臨床研究があったが、差は認めなかった。
 http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1404304#t=abstract

麻酔管理
TBI患者では頚損を伴うことが多い。術前の後屈制限評価を必ず行う。
TBIではDICを合併しやすい。凝固評価は必須。
過換気は常に行うものではなく、マンニトールやCSFドレナージなどでもICPが下がらない場合にのみ使用すべきとの意見もある。
TBI後は高血圧になりやすく、高血圧を放置すると脳浮腫を助長する。低血圧も神経損傷を助長するため避ける。通常よりやや高めくらいがめやす。
輸液は等張液で行う。ステロイドは脳腫瘍や脳膿瘍での浮腫の軽減に効果があるが、TBIではエビデンスが乏しく、ルーチンには行うべきではない。
サクシニルコリンはICPをあげるため避ける傾向にあるが、意識下挿管で暴れた時の方がICPの上昇率は高い。
ケタミンは脳圧亢進するとされているが、TBIでは脳圧の亢進はないとする報告もある。
吸入麻酔薬には血管拡張作用があるため、脳血腫の拡大をみとめる患者では使用を控える。
高体温は避ける。低体温(33度まで)は安全ではあるとされているが、予後を改善するとまでは結論がでていない。高熱時にはアセトアミノフェンが1st choiceである。
神経性肺水腫は、病態は不明であるが、TBI後にも起こり得る。PEEPはかけた方がよい。
高けいれん薬を受傷1W以上続けることは進められないが、穿通性頭部外傷では長期間にわたって必要な場合がある。レベチラセタム(イーケプラ)が外傷後けいれんの治療としてポピュラーである。(日本ではどないかな?)



Yao's anesthesiaより
頭部外傷ガイドラインもよもう。


TBI患者のICPモニタリングの review
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25479125


頭部外傷後、開頭術中の低血圧と予後の関連
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22504924

頭部外傷後、開頭術中の高血糖と予後の関連
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21596888

頭部外傷の年齢と予後
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14567601







2015/10/18

Appendectomy for pregnant patient

妊婦の虫垂炎手術の麻酔管理

1. 疫学
 虫垂炎は妊娠中緊急手術で最も多く1/350- 1/10000 。妊娠中緊急手術の25%を占める。
 ただし妊婦が非妊娠女性と比較して虫垂炎になる確率は低いが、診断が遅れる
 ことがあり、壊疽性虫垂炎は多い。
 穿孔の確率は15%。このうち30%は妊娠6ヶ月未満におこり、70%は6ヶ月以降。
 妊娠中に手術となる確率は0.75-2.2%

2. 麻酔が胎児と妊婦に与える影響
 1) 催奇形性について
 動物実験では幾つかの麻酔薬で催奇形性が指摘されているが、人間を対象として
 麻酔薬の催奇形性を報告している論文はない。
 FDAは1975年に妊婦に使用できる薬剤をカテゴリー化したが、最近このカテゴリーを
 外そうとする方針らしい。吸入麻酔薬、局所麻酔薬等、使用できない薬剤はない。
 NO2はメチオニン合成酵素を阻害してDMA合成に影響を与えるので妊娠3ヶ月まで避ける
 麻薬ではフェンタニル、モルヒネ、ケタミンも少量(0.25mg/kg iv)であれば使用できる
 2) 妊婦への影響
 吸入麻酔薬のMACは低下する
 局所麻酔薬の感受性は増加する
 硬膜外麻酔で必要となる薬剤の量は減少する。硬膜外腔のスペースが減っているので
 酸素消費量は20%増加している。
 粘膜浮腫が強いため、経鼻胃管やnesal airwayは避ける。

3. 麻酔の注意
 出産後に延期できる手術は延期する
 妊娠3ヶ月までの手術は避ける
 可能な限り区域麻酔を用いる
 すべての妊婦の全身麻酔はcrash inductionで行う。細い気管チューブで行う。

4. その他
 ラパロの場合はCO2の蓄積により胎児が呼吸性アシドーシスを起こす可能性があるため
 注意する。 EtCO2で32程度に保つようにする。
 胎児死亡/流産は手術や麻酔の影響よりも手術にいたる疾患の重症度の影響が大きい
 (敗血症は腹膜炎などが大きな影響を与える)
 24-36Wに手術をした妊婦では22%が正期産であった。
 
Yao's anesthesia より
 
 

Effect of low dose ketamine

救急外来からケタミンが使えたら、何かメリットはあるのだろうか?

Low-dose ketamine improves pain relief in patients receiving intravenous opioids for acute pain in the emergency department: results of a randomized, double-blind, clinical trial.
Acad Emerg Med. 2014 Nov;21(11):1193-202
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25377395

救急外来にきた60人の患者を対象に、疼痛コントロールに対してモルヒネ単独群、モルヒネ+ 0.15mg/kgのケタミン群、モルヒネ+ 0.3mg/kgのケタミン群に分けて疼痛コントロールおよび合併症についてRCTを行った。

0.3mg/kgのケタミンを使用した群で疼痛コントロールは最も良好であったが、不快感やめまいは0.15mg/kg群と比較して増加した。 


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low dose だと呼吸抑制もないし、疼痛コントロールとしては用いやすいのかもしれない。
ケタミンの鎮痛作用の特徴としては体性痛はとりのぞけるが、いわゆる内臓痛は取り除けないので、単独では用いにくいが、補助鎮痛としては本当にいい薬だと思う。

Anesthesia of intestinal obstruction

腸閉塞の麻酔管理

1. 腹痛の痛みのメカニズム:腹痛は3つの痛みに分けられる。
 1) visceral pain:自律神経系の疼痛でC fiberを介したもの。鈍い痛みを引き起こす。
 2) somatic pain:体性痛。A-δ fiberを介したもの。壁側腹膜の疼痛で鋭い痛み。
 3) referred pain:放散痛
 腹痛自体の診断としては非特異性(41%)が多い。
 次に虫垂炎、胆嚢炎、腸閉塞、尿管結石と続く。緊急腹部手術の死亡率15-34%

2. 閉塞の部位
 小腸閉塞の原因の75%は手術後の癒着である。小腸は長く、絞扼性(strangulation)になりやすい。
 大腸閉塞の原因の最多は腫瘍によるものであり、捻転を除くと緩徐に進行することが多い。
 捻転の場合は破裂するリスクを伴うため、注意が必要。

3. 症状
 間欠痛:上腹部ほど間隔が短く(4-5min)、閉塞が下位にいくほど間隔が長くなる(15-20min)
 疼痛と嘔吐、便秘、腹部膨満が4大症状。

3. 体液移動と循環動態バランス 
 そもそも1日に唾液を含めた全腸管より7-9 Lのfluidが分泌されている。
 分泌液の中で最もKの割合が高いのは唾液である。その次が胃液。
 このうち小腸からの分泌は1000-2000mlである。
 腸閉塞となると、プロスタグランジンにより腸液の分泌が促進され、
 閉塞部位よりも上部でfluidとgasがたまる。
 腸管内の圧が20mmHgをこえると再吸収もされなくなる。
 体液移動の目安:
  小腸閉塞の初期:1500ml
  嘔吐が始まる頃:3000ml
  血圧低下を伴う:6000ml
 補液は晶質液でよい。

4. 全身への影響
 1) 循環動態の変化:体液移動に伴う
 2) 電解質異常: 低Na (血圧低下を助長する)、低K
 3) アシドーシス:脱水の影響が大きい
 絞扼性となった場合は血管内膜透過性の破綻により血性腹水となる。輸血が必要となることも。

5. 減圧処置
 腹壁にtensionがかかると、逆流性の蠕動運動が起きるとともに手術においては深い麻酔が必要となる。このため腸管内の減圧が必要である。 

6. 誤嚥の予防
 導入時の誤嚥は予防しなければならない。誤嚥の頻度は5/10000麻酔(0.05%)
 H2ブロッカー等の制酸薬で胃液のPHを下げておくことは誤嚥した場合の重症度の軽減に
 繋がるが、実際に投与してもそれほどPHが下がるわけではなく、効果は薄い。
 挿管時の体位はhead up positionがよいとされているが、議論の余地あり。
 cricoid pressureは効果がないとも主張もあるが(食道は気管の下にはないとか、
 逆に気管が見えにくくなるとか)、行う場合は挿管後呼吸音を確認するまで行う。

Yao's anesthesiology 7th edition 2012
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この2ヶ月くらい、本当にガスの抜けた炭酸水のような生活をしていたので、
気持ちをいれかえた。