頭部外傷(traumatic brain injury TBI) の麻酔
TBIで最も頻度が高いのは脳挫傷。診断は脳浮腫の存在と血腫の除外である。
次に頻度が高いのが血腫(硬膜外、硬膜下、皮質下)。皮質下血腫では急激な意識レベルの低下を認める。穿通性頭部外傷では特徴的な経過を取ることが多い。痙攣が受傷後長期にわたって続くことがある。
病態として、初期には神経損傷が際立ち、次に脳虚血が出現する。よって低血圧と低酸素を防ぐことがTBI患者の治療目標である。脳虚血が出現するメカニズムは脳血流と代謝バランスの変化により、脳の自動調節能が破綻する。その結果CO2に対する脳血管の反応が失われ、脳浮腫を引き起こすというプロセスである。
脳灌流圧の維持
CPP = MAP - ICP であり、CPPを60以上に維持することが求められる。そのためには血圧を保つこと、ICPを低くすることが求められる。
マンニトール
0.25-1g/kgでのボーラス投与により、15分後よりICPを下げる。2-6時間効果が持続する
ICP管理のために使用する場合は持続投与ではなく、ボーラスとして用いるべき
マンニトール投与により、ヘルニアが悪化する場合もある。血漿浸透圧が300-320の時
最も効果を発揮する。
周術期管理
初期から高血糖(200mg/dl)以上が認められると予後不良である。強化インスリン療法は低血糖のリスクもあるため、マイルドな管理が望まれる。
TBIではSIADHやcerebral salt wasting syndromeにより低Naになりやすく、低Naはさらなる浮腫や痙攣のリスクとなるため補正する。
高Naは尿崩症の合併やマンニトール投与、経管栄養により起こしやすい。尿崩症の治療にはデスモプレシンを使用する。
低KもSIADHやCSWの結果として起こりやすい。また過換気やインスリンの投与によりKの細胞内移動が進みさらに低Kとなることがある。
TBIにより血漿中Mgは1/2まで低下する。MgはNMDAアンタゴニストであり、後シナプス細胞受容体でグルタミン酸の神経毒性を緩徐にする働きを持っている。しかしMgの予防的投与には議論の余地がある。
女性に比べて男性のTBIではCSFのグルタミン酸や乳酸の値が上昇する傾向にあり、プロゲステロンが関与しているのではないかとされている。
TBI患者に対してプロゲステロンを投与する臨床研究があったが、差は認めなかった。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1404304#t=abstract
麻酔管理
TBI患者では頚損を伴うことが多い。術前の後屈制限評価を必ず行う。
TBIではDICを合併しやすい。凝固評価は必須。
過換気は常に行うものではなく、マンニトールやCSFドレナージなどでもICPが下がらない場合にのみ使用すべきとの意見もある。
TBI後は高血圧になりやすく、高血圧を放置すると脳浮腫を助長する。低血圧も神経損傷を助長するため避ける。通常よりやや高めくらいがめやす。
輸液は等張液で行う。ステロイドは脳腫瘍や脳膿瘍での浮腫の軽減に効果があるが、TBIではエビデンスが乏しく、ルーチンには行うべきではない。
サクシニルコリンはICPをあげるため避ける傾向にあるが、意識下挿管で暴れた時の方がICPの上昇率は高い。
ケタミンは脳圧亢進するとされているが、TBIでは脳圧の亢進はないとする報告もある。
吸入麻酔薬には血管拡張作用があるため、脳血腫の拡大をみとめる患者では使用を控える。高体温は避ける。低体温(33度まで)は安全ではあるとされているが、予後を改善するとまでは結論がでていない。高熱時にはアセトアミノフェンが1st choiceである。
神経性肺水腫は、病態は不明であるが、TBI後にも起こり得る。PEEPはかけた方がよい。
高けいれん薬を受傷1W以上続けることは進められないが、穿通性頭部外傷では長期間にわたって必要な場合がある。レベチラセタム(イーケプラ)が外傷後けいれんの治療としてポピュラーである。(日本ではどないかな?)
Yao's anesthesiaより
頭部外傷ガイドラインもよもう。
TBI患者のICPモニタリングの review
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25479125
頭部外傷後、開頭術中の低血圧と予後の関連
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22504924
頭部外傷後、開頭術中の高血糖と予後の関連
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21596888
頭部外傷の年齢と予後
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14567601