2015/12/08

Cardiac complication after major noncardiac surgery

非心臓手術後の心合併症(とくに心筋梗塞)について、NJEMにreviewが載っていた。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMra1502824

特に新しい知見があったわけではないけど、NEJMにこういうreviewが乗ると、
他科の先生や研修医と話がしやすくなる。

よくあること
「患者さんのNYHAを評価しようと思ったんだけど、最近ずっと寝たきりらしくって…」
「この患者さん心機能悪そうなんだけど、なんか追加の検査って要りますか?」

【疫学】
毎年世界中で2億人以上が大手術を受けている。そのうち45歳以上の1億人が周術期MIのリスクがある。

1)  91.5%は術後もトロポニンレベルは変わらないが、そのうちの1.1%が術後30日以内に死亡している。
2) 0.6%が非心臓疾患の影響でトロポニンの上昇を認め、そのうちの26.3%が30日以内に死亡している。
3) 3.3%がMIを発症する。症状を呈するのは65.3%のみ。34.7%は症状がない。症状あり、症状なしの30日死亡率はそれぞれ12.5%と9.7%。
4) 4.6%がMIの診断基準は満たさないがなんらかの心合併症を呈する。そのうちの30日死亡率は7.8%

全体として、この20年で術中の死亡はほとんど0に近い値(心臓外科を除くと10万件に1件以下)にまで低下したが、術後30日死亡率は1.5%程度でほぼ横ばいとなっている。
しかしこの要因としては、手術をうける患者のリスクの増加も考慮しなければならない。
術前イベントリスクとして、6ヶ月以内のCADイベント、3ヶ月以内の脳梗塞イベント、6ヶ月以内のPCI治療歴がある。こういった心血管疾患の治療後や合併症をもった患者の割合は増えている。

【術前のリスク評価】
術前リスク評価が重要な理由は、正確な予測が治療方針の決定に影響を与えるからである。評価方法として3つの方法を紹介
1) Clinical risk index 有名なものとして RCRIとNSQIP MICAがある。RCRIは古くから使われている心疾患評価方法ではあるが、最近の後ろ向き研究ではリスクの見積もりが50%ほど甘いという結果がでた。NSQIP MICAはRCRIよりも正確にリスク評価ができるとされているが、MIについてECG によるST segmentの上昇と新たに出現したblockでのみ評価し、biomakerを評価に加えていないことが欠点である。
2) シンチ、CCTA(coronary computed tomographic angiography) ガイドライン上は重篤心疾患のリスクが1%以上であれば、検査をすべきとされているが、実際に40歳以上で手術をうける患者の9%しかシンチはされていない。またMI発症した患者の1/3ではシンチがnegativeであった。RIRCのリスク評価とシンチの正確性とを比較した論文はなく、今後の研究が待たれる。CCTAはリスクを過大評価するリスクがある。
3) biomaker  BNP  > 92ngは周術期心疾患と強固な関連があり、シンチやCCTAと比較しても安価に検査ができるため、リスクのある患者では専門医にコンサルトする前に評価すべき項目である。

【術前の心疾患の治療】
coronaryの狭窄が70%以上の患者に対して行われた研究でも術前にPCIを行うメリットは否定された。しかしこの研究は不安定狭心症やLAD 基部の50%以上の狭窄がある患者、EF < 20%の患者等は除外されているため、「安定した狭心症の患者」では治療不要ということとなる。

【術中管理】
βブロッカーの使用:有名なPOISE trialで術中のβブロッカーの投与の有用性は否定されたが、POISE trialはそもそも投与量が多すぎるとの批判が多い。しかしPOISE trialを除いたβブロッカーのメタアナリシスでも術中の新たな投与によるメリットは否定的であり、心疾患をもち手術に臨む患者がβブロッカーを始めるなら術前数週間前からがよいとされている。
クロニジンとアスピリン:POISE-2 trialではクロニジンとアスピリンについての評価がなされたが、クロニジンについては効果は否定的、アスピリンについてはMIのリスクは減らさなかったが、出血のリスクが増えたとのことであり、これも否定的。
もともとアスピリンを飲んでいる患者では術後早期(8days以内)に再開した方がよい。
輸血について:貧血はMIのリスクとなるが、THAを対象とした患者で 目標Hb > 10g/dl群とHb > 8g/dl群で比較したが、10g/dl群での優位性はなく、Hb > 8g/dlを目標に輸血すればよさそう。

【術後管理】
術中と比較して、術後はモニタリングの間隔が開き「モニタリングされていない時間」が増える。このことがMIのリスクにつながる。
POISE-2trialでは、手術室での低血圧は平均15分程度であったが、病棟での低血圧は150分であった。また術後48時間以内に起きた低酸素血症のうち、発見されたのは5%であったとの報告がある。看護師が見つけられなかった低酸素血症のうち、38%は SpO2 < 90%が1時間以上続いていた。 
術後の低血圧と低酸素状態はMI発症のリスクを上げるため、術前評価でリスクを確認した患者では、術後の注意深いモニタリングを必要とする。
また、術後鎮痛薬の使用により、MIを発症しても症状がない患者が多い。リスクのある患者ではトロポニンの測定を定期的に行うことを提唱している論文もある。