2015/09/05

Amphetamine abuse and anesthesia


海外の文献のほうが多いかと思いきや、意外に日本の文献の方が多かった。海外はコカインやヘロインが好きなようだ。日本も流行った時期が2000年前後であり文献がやや古い。

1. 覚醒剤とは
アンフェタミン、メタアンフェタミンの2つ。メチルフェニデート(リタリン®)もアンフェタミン類に入る。

2. 覚醒剤中毒の病態
覚醒剤は交感神経系の興奮作用を持ち、血管収縮、HR増加、BP上昇、気管支拡張をもたらす。またドパミン神経終末の遊離カテコラミンを放出させる。身体依存はないが、精神依存はある。
覚醒剤精神病:覚醒剤依存徴候を有し幻覚妄想を主とする精神病状態。休薬1ヶ月で症状は消退するが、再発しやすい。オピオイドと異なり拮抗薬はない。

3. 周術期への影響
急性中毒では吸入麻酔薬のMACが上昇する。慢性中毒では低下する
心筋の不整脈感受性を高める
体温を上昇させる
モルヒネの鎮痛作用を増強させる
間接型昇圧薬の反応を低下させる(β受容体が減少するため)

4. 麻酔管理の方法(症例報告をもとに)
長期にわたって覚醒剤を常用した患者では肥大型心筋症に類似した所見がもられることもあり、不整脈から突然死にいたることもある(1,4)ので注意が必要。
内因性カテコラミンの持続放出のためにβ受容体が減少しており、予測不可能な低血圧が生じることがある。直接作用型の昇圧薬が有用である。またステロイド投与もβ受容体の減少を補うという意味で有効であった(2)との報告がある。
覚醒剤による高体温をきたすことがあり、悪性高熱症との鑑別が重要。高熱による死亡例もある(3)。
メチルフェニデートは治療量(20-60mg/day)であれば全身麻酔は安全に行えるとの報告がある(5)。
spinalで鎮静にプロポフォールを用いると、覚醒剤中毒患者では多幸感、興奮状態やせん妄など多様な症状をきたす(6)ので注意が必要。むしろ全身麻酔の方がいいのか…?

参考文献
(1) 覚醒剤精神病患者の左肺全摘術の麻酔経験 麻酔 vol.42 no.6 914-917 1993
(2) アンフェタミンによるβ受容体減少作用の1症例 麻酔 vol.59 no.11 1242-1245 2001 
(3) 覚醒剤使用者3例の経験 ICUとCCU col.19 no.7 1995
(4) 覚醒剤の使用が原因と考えられた術後突然死の1症例 第51回日本麻酔学会関西支部学術集会
(5) メチルフェニデート内服中の患者に対して全身麻酔を施行した2症例 麻酔 vol.57 no.6 748-751 2008
(6) プロポフォールによる鎮静中に多彩な精神症状をきたした薬物乱用患者の1症例 麻酔 vol.47 no.5 589-592 1998