2015/01/31

Acute preoperative care of the Burn injured patient


Anesthesiologyの2015年2月号に熱傷患者の麻酔管理(ICU管理)のReviewが載っていた。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25485468
今の病院は熱傷患者さんが多い。 ケアユニットがあるからなのだが。 
前にまとめた熱傷患者と輸液の話。
http://mmarico.blogspot.jp/2014/09/burn-injury-and-fluid-therapy.html

熱傷は受けてからの時間的経過で病態が変化する。
【早期: 24-48h】                       
循環:頻脈 CO低下 SV低下 SvO2低下  PVR上昇 SVR上昇 代謝性アシドーシス
腎臓:乏尿 FENa < 1%
脳:疼痛刺激強い ADH上昇
呼吸:肺水腫 気管支痙攣、ARDS
内分泌:アルドステロン上昇 コルチゾール上昇
皮膚:熱傷皮膚からの体液の喪失 熱傷面積25%以上で全身浮腫
【代謝亢進期: 48h〜】                     
循環:頻脈 CO上昇 心筋機能低下 心エコーでは収縮力の変化  SvO2上昇 SVR低下
肝臓:代謝機能変化 脂肪肝 肝血流増加 糖新生増加 凝固因子低下 Alb低下
腎臓:GFR上昇 尿細管機能低下
骨髄:血球減少 貧血 免疫不全 骨粗鬆症
脳:疼痛反応の亢進
呼吸:肺水腫 気管支痙攣 ARDS 肺炎
全身炎症反応:インスリン抵抗性亢進 筋肉の異化 エネルギー需要亢進

初期にはCOが低下している。このCOの低下は24-36時間続く。輸液負荷をまさに行っている時だが注意が必要。

・Inhalation Injuryについて
単に気道障害ではなく、肺胞レベルまでの障害である。Inhalation Injuryのある熱傷患者では死亡率が増加し、初期輸液の量も50%増加する。Inhalation Injuryは次の3要素から成り立つ
a) 直接煙や熱風が顔面や上気道にあたることによる損傷
b) 化学物質が期間や気管支、肺胞に達することによる内膜の障害
c) 一酸化炭素やシアン化物質を吸入することにより酸素交換の阻害
小児では上気道の閉塞が早急に起きやすい。
上気道の浮腫はhead upにした状態で3-6日経過をみると改善する
陽圧換気を行うと必要な輸液量が増加する。
粘膜が煙の中に含まれる化学物質によって損傷を受けるとサーファクタントの分泌が減り、無気肺となる。
また煙を吸入していなくても、重篤な皮膚熱傷では(全身浮腫の結果)気道や肺が損傷されることがある。
一酸化炭素は酸素より200倍Hbと結合しやすい。Co-Hb 15%以上で中毒症状が出現し、50%以上で死に至。一酸化炭素の半減期は4hであるが、100%酸素の吸入にょり 40-60minに減らすことができる
シアン化物はミトコンドリアのcytochrome oxidaseを阻害することで酸化的リン酸化を阻害し、代謝性アシドーシスをもたらす。 20ppm以上が危険とされ100ppm以上で痙攣、昏睡、呼吸不全、死にいたる。
熱傷患者全体の死亡率は4%であるが、高リスク因子として、年齢60歳以上、熱傷面積40%以上、Inhalation Injuryがあることが挙げられている。
Inhalation Injuryが疑われる場合に挿管を行うかどうかという問題がある。
小児の場合は急速に気道閉塞がおこる可能性が高いため、挿管する。成人の場合は内視鏡で正常な喉頭が確認できれば、挿管を行わなくてもよい。熱傷面積やその他の要因を加味して挿管を考える。
SpO2のみでは一酸化炭素中毒は判別できないため、必ずガスをとる。 

・輸液治療
熱傷面積は15%異化であれば、輸液は経口から、もしくはivで維持量の1.5倍程度の量で問題無い。 
コロイドは避ける傾向にあったが最近ではより早期より使用する傾向にある。 
どのような公式を用いたとしても、輸液量は目標バイタルを達成できるように調節すべきであり、闇雲にいれるべきではない。

・麻酔管理(術前評価)
熱傷の受傷時期、程度、気道の評価、Inhalation Injuryの有無については最低限聞く。その他は緊急手術に準じる。
・麻酔管理 ( 気道確保)
顔面に熱傷があり、マスクフィットなどができない場合はawake fiber挿管を行う。小児の場合awake fiberは現実的ではなく、ケタミンを使用してfiber挿管を行うことが多い。
LMも熱傷患者で使い易い。
小児でもカフ付きのチューブが望ましい。
顔面熱傷が著しい場合は気管切開をおこなうこともある。適切な時期については不明
・麻酔管理(血管確保)
熱傷患者では難しいことが多い。熱傷面積が広く血管アクセスが困難な時は骨髄路も検討する。
・麻酔管理(呼吸器設定)
ARDSにのっとり、6ml/kgで行う。抜管前には気道の状況をfiberで確認することが望ましい。
・麻酔管理(モニタリング)
体温管理が重要。

・薬物動態
熱傷患者では血管外への漏出がすすむため低Alb血症となる。またAAG(α1 acid glycoprotein)は増加する。
AAGに結合する薬剤はfree fractionが減るため、効果がでにくくなる(リドカイン、プロプラノロール、筋弛緩薬、オピオイドなど)
薬物動態ではVdが増加する。また48h以降の代謝亢進時期では腎血流が増加するため、排泄が増加する。 
筋弛緩薬は脱分極性では高Kをおこすリスクがあるので避ける。非脱分極性筋弛緩薬の効果は減少する(AAGと結合しfreeなものが減少するため)ロクロニウムでは1.2-1.5mg/kgの投与が推奨されている。(この量では90sec後に挿管可能)
鎮静薬には何を使用すべきか、推奨されているものはない。吸入麻酔薬による差はないが、プロポフォールはVdが広がるため、注意が必要。
オピオイドの使用量は増加する。特に受賞後、11-17日目に疼痛のピークを迎えるとされている。first choiceはモルヒネであるが、モルヒネ耐性の患者ではクロニジン、デクスメデトミジン、ケタミン、メサドンも推奨される。熱傷患者ではNMDA受容体の upregulationがみとめられるため、疼痛コントロールに必要なケタミンの量増加する。
ケタミンの使用時の情動不安(悪夢など)を防ぐ為にベンゾジアゼピンを併用することが推奨されている。モルヒネの使用量が 0.5ml/kg/hを超える場合はケタミンもしくはデクスメデトミジンの使用を検討する。
ケタミンのボーラスを行うと、熱傷患者では血圧が下がるため注意する

・栄養管理
熱傷患者では異化亢進を認めるため、連続的な栄養負荷が必要である。手術時から栄養を投与することが望ましいとされている。手術時に経腸栄養をしたほうがよかったという報告もある。

・輸血
RBCはHbを目標にすべきではなく、適切な前負荷と代謝状態(結局BGA)を評価しながら行うべきであるが、指標となるべきもので唯一のものはなく、複合的に判断する。
FFPはを早めに入れるべきかどうかは議論がわかれる。



Spontaneous intracranial hypotension


anesthesiology の2014.12のCase scenario  

麻酔と関係ない気もするが、ペイン外来にはやってきそう。
日本語では日本頭痛学会がまとめておられた。
https://www.jhsnet.org/GUIDELINE/1/1-19.htm

Case report 36yo F
1週間前から続く頭痛、肩から首にかけての放散痛を主訴にERを受信した36歳女性。
頭痛は体位によって変化し、座位や歩行で悪化。悪心を認めるが、羞明や頸部硬直、発熱はなし。 CTとMRI、MRAを撮影したが、この時点では異常なし、髄液検査では初圧9cmH2O以外は異常なし
診断的治療としてblaad patchをL4/5より17ml実施したところ、直ちに頭痛は消失。精査のため造影MRIを用いたところ、髄膜の肥厚と変性、硬膜外静脈洞の拡張を認めた。
脊椎MRIではC7-T1にかけて椎体の隆起を認めこの部分で硬膜外静脈の拡張もあり、CSFの隆起が疑われた。C7-T1の椎体部分切除術を施行し、3日後に退院。術後2週間での外来でも首の回旋制限以外に特に後遺症はなく、頭痛も起きなかった。


Spontaneous intracranial hypotension 特発性低髄液圧性頭痛
発症頻度は5/10万人 40−50台の女性に多い。原因としては特発性ではあるが、1/3の患者でなんらかの軽度外傷が報告されている。
症状は後頭部の頭痛。痛覚のあるどの静脈が「引っ張られているか」によって部位が決まる。頭痛の性質は電撃的なのものから徐々に悪化するもの、体位によるものからよらないものまで様々である。首の痛みは半分の患者が訴える。
髄膜が刺激されるため、羞明や頸部硬直、嘔吐といった症状も認められる。脳神経や下垂体、脳幹は脳が下垂することで影響を受ける。 この結果複視や視野欠損、味覚障害、顔面神経まひを訴えることもある。脳下垂がひどくなると、運動障害がおきることもある。
ある研究は 338人のSIHの患者の6%に、頭痛発症時にミエロパチー、神経根障害がおきたとしている。
診断はCT myelography とガドリニウム造影MRIがよい。 Dynamic CT myelographyがリークの場所の特定に最も優れている。 Gd MRMは CTMよりも小さくて流れの遅いリークに対して感度がよいが、撮影はより複雑である。
そして未だにSIHを疑う患者の半分においてこれらの検査はCSFリークを特定できない。
結局診断は臨床症状と画像診断を複合させて考えるしかない。
国際頭痛学会はSIHの診断基準を作っているが、制限がかかりすぎている。

A. 頭部全体 および・または 鈍い頭痛で,座位または立位をとると 15 分以内に増悪し,以下のうち少なくとも 1 項目を満たし,かつ D を満たす
 1. 項部硬直
 2. 耳鳴
 3. 聴力低下
 4. 羞明
 5. 悪心
B. 少なくとも以下の 1 項目を満たす
 1. 低髄液圧を MRI で認める ( eg 硬膜の増強など )
 2. 髄液漏出を脊髄造影、CTM、または脳槽造影で認める
 3. 座位髄液初圧は 60mmH2O未満
C. 硬膜穿刺その他髄液瘻の原因となる既往がない
D. 硬膜外血液パッチ後, 72 時間以内に頭痛が消失する

硬膜外自己血パッチを行うと、SIHの患者で治療後数分で症状が軽快する。このため診断的治療にも用いられている。この早期効果は脳脊髄におけるCFSの流れの変化によるものと考えられている。治療の効果はCSFリーク部位と硬膜外に入れた血液の広がりによって決定され、治療効果は55-77%とされているが、施術前にトレンデンブルク位を1時間とり、さらにパッチ後24時間その姿勢を保持すること、アセタゾラミド内服を併用することで90%の患者に効果があったとする報告がある。
(アセタゾラミドはCSF産生を抑制する効果があり、自己血によるリーク部位をシールする時間を長く保てるためと考えられている。)
自己血パッチでも症状が改善しない場合は外科的治療でリーク部位を閉じる。

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自己血パッチ、やったことないなー 



2015/01/28

Consciousness and anesthesia

麻酔中の意識と記憶に乖離があるという論文を読んだら、
もう少し文献をあさってみたくなった。

The ability of bispectral index to detect intra-operative wakefulness during total intravenous anaesthesia compared with the isolated forearm technique.
Anaesthesia 2013, 68, 502–511   http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23521699
この論文では、婦人科手術をうける患者22名について、BIS 55-60を目標にTIVA-TCIのコントロールを行い、意識と記憶の状態を評価した。
isolated forearm technique(IFT)を用いており、16/22名でIFTで反応があった。
また2名の患者は反応したことをかすかに覚えていた。BIS 55-60では「意識があるが記憶がない状態」の患者が多く、意識と記憶は麻酔深度によって差を認めていた。

意識と記憶が脳に於いても物理的に別の場所で管理されていることを思うと、
麻酔における「意識のなさ」と「記憶のなさ」が乖離していることも至極当然の
ようにも思う。

・1MACで50%が皮膚切開を加えても動かないとされるが…
吸入麻酔のMACという概念は脊髄の運動ニューロンの抑制の指標であり、脳ではない。
脳にのみ薬剤を投与し、麻酔中の痛み刺激への反応抑制を得ようとすると、約2倍量が必要となる(動物実験)

・麻酔薬で意識が消失するメカニズムは、脳の様々な部位の情報・刺激を統合する能力を抑制することによるものらしい。

・麻酔中の覚醒状態にはノルアドレナリン系の神経シグナルが関与している。
Eur Neurosci 2011:34;1018-1022

・プロポフォールとミダゾラムは記憶形成過程を抑制する。
ミダゾラムに逆行性健忘があるといわれているが、これはミダゾラムが海馬や扁桃体に分布するGABAa受容体に作用するからとされている。

・少し古いがScienceに乗った麻酔と意識についての総説
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2743249/

参考:日本臨床麻酔学会会誌 2015:35