2014/05/24

Anesthesia for liver transplantation (1)


Anesthesia for liver transplantation.
Semin Cardiothorac Vasc Anesth. 2013 Sep;17(3):180-94. doi: 10.1177/1089253213481115. Epub 2013 Mar 12.
Hall TH1, Dhir A.

Introduction
・1967年に初めての同種肝移植が実施された。
・肝移植の適応は以下の7分類
 1) 非胆汁性肝硬変:アルコール性、ウイルス性肝炎、脂肪性肝炎
 2) 胆汁性肝硬変:PBC、PSC
 3) 胆道閉鎖症
 4) 急性肝細胞壊死:薬剤性、ウイルス性、移植後機能不全
 5) 代謝疾患:ヘモクロマトーシス
 6) 悪性疾患
 7) その他:Budd-Chiari症候群等

Liver transplantation in North America
・アメリカでは慢性肝疾患で75万人が毎年入院しており、4万人以上が肝不全で死亡している。2000人が急性肝不全で肝移植の5-6%を占める。
・アメリカでの移植後の生存率は1年、3年、5年でそれぞれ87%、78%、73%。
・ドナー不足のため、移植登録した患者の5-10%が移植を受けられずに死亡している。
・アメリカではUNOSが移植のコーディネートをしており、移植登録はMEDLスコアによっを参考にしている。

The Physiological Effects of liver disease
・循環:心機能と肝機能は密接な関係にあり、移植を受ける患者において心機能は予後を決める重要な要素である。
(心機能低下)
肝不全状態の患者は特徴的な循環形態を示す。高心拍出量とHR上昇、低血圧である。肝硬変の患者では肝臓における代謝機能が低下しているため、門脈の内因性物質が体循環にまで「漏れる」ことで血管の拡張をもたらす。これを代償しようとしてCOは増加すうr。
また肝機能不全では交感神経系の活性とカテコラミン増加も認められ、これがいわゆる"hyperdynamic circulation"をもたらす。しかし一方で肝不全の患者はストレスに対する循環器系の反応が鈍く、慢性心筋症という状態ももたらす。これらの心機能の低下が移植後の長期予後にどのような影響をもたらすかについては不明な点が多い。
(冠動脈疾患 CAD)
歴史的に肝不全の患者では低血圧、低コレステロール、エストロゲン高値であるため、CADはおきにくいとされていた。しかし最近の研究ではこの主張は否定されている。
脂肪肝でない肝不全ではCADのリスクは低いが、脂肪肝ではCADのリスクは高く、移植前のCADの有無は予後を悪くする。
(右心不全と門脈肺高血圧)
肝不全患者では肺動脈圧の上昇を認めることがある。しかし肺動脈圧が単に高値であるだけでは、移植の禁忌にはならない。肝不全の患者の30-50%はやや肺高血圧であるが、肺血管抵抗は正常であり、hyperdynamicな循環状態により相対的に肺高血圧となっていると考えられる。
肺動脈圧が 240 dyne s cm-5 以上の場合にportopulmonary hypertention(門脈肺高血圧)と診断する。肝硬変患者で門脈肺高血圧を伴う頻度は6-8%である。病態は不明であるが、遺伝子が原因として考えられ、なんらかの理由で肺動脈の内径が狭くなると考えら得る。重度の門脈肺高血圧を合併した患者の死亡率は9ヶ月で42%と高値である。
門脈肺高血圧は移植後生存率を悪化させる要因である。


・呼吸:多くの肝不全患者では呼吸困難を訴える。
(肝肺症候群)
原因は肝不全に伴う肺血管拡張によるシャントである。肺毛細血管の径は通常15um以下であるが、これが100um以上にまで大きくなることでV/Qミスマッチを引き起こす。呼吸困難で発症する。重症度はPaO2によって分類され、Room airでPaO2 60-80をmild、50-60をmoderate、 < 50をsevereとしている。薬物治療で認められているものはない。移植をしなければ肝肺症候群の予後は悪い。移植後に数ヶ月かかることがあるが、症状が改善するという報告がある。
(胸水と腹水)
胸水と腹水は門脈圧亢進の一般的な合併症である。肝性胸水は腹水が胸腔に移動したもので、腹水のある患者の10%に認められる。右側がほとんどである。症状は頻呼吸と低酸素血症である。大量の胸水が存在する場合は術前にドレナージを行うことが望ましい。

・腎機能:急性腎障害は肝硬変によくある合併症であり、重症なものは肝腎症候群である。重症な慢性肝不全の患者では血管症のvolume不足により腎前性腎不全をきたす。
肝腎症候群は2つのタイプに分類される。
Type 1は急性に糸球体が減少するもので、平均生存は2週間である。Type 2はおだやかな進行で腎機能が低下するもので平均生存は月単位である。肝腎症候群は鑑別診断も重要である。血管内脱水による腎不全や薬剤性腎障害、SBP等の感染性腎障害を除外する必要がある。術前に腎機能障害が進行している場合は術中の腎代替療法を積極的に考慮すべきである。

・中枢神経系:慢性肝不全の患者は肝性脳症を伴う。行動の変化や無気力から重症な場合は昏睡状態となる。肝性脳症の病態生理は複雑でよくわかっていない。アンモニア濃度は脳症の程度の指標になるとされているが、脳機能とアンモニア濃度の相関関係はおおまかなものでしかない。他にもグルタミン酸、グルタミン、セロトニン、乳酸、ピルビン酸が脳機能と関係しているとされている。治療は窒素負荷を減らした食事、また鎮静薬(特にベンゾジアゼピン)の使用をさけること、消化管出血の予防、メトロニダゾールやリファンピシンにより腸管内の細菌活性を抑制することでアンモニアの産生を減らすことなどがある。肝性脳症を伴う肝不全の患者の65%は脳浮腫、ICP亢進を伴っているとされている。

・凝固系:肝不全の患者ではPT、APTTの延長を認める。血小板は正常か上昇していることがあっても、脾機能亢進により血小板減少症をきたすことがある。しかし術前の凝固機能が異常であっても出血量との相関はみとめない。肝不全の患者の凝固系はおそらく既存の凝固検査以外の何かでバランスが取られていると考えられている。しかし凝固機能が強固なものではないこともたちかで、肝不全の患者では出血しやすいのと同時に血栓形成傾向にもある。

・消化器系:門脈亢進症によって食道静脈瘤等を起こす。上部消化管出血のリスクは肝移植をうけるすべての患者で考える必要がある。食道出血の予防目的にβブロッカーの内服をおこなうことがある

・その他:肝不全の患者は感染症のリスクが高く、移植後は免疫抑制剤の内服によりさらに易感染傾向となる。感染予防の対策が重要である。

門脈肺高血圧症と肝肺症候群の違い
 portopulmonary hypertentionは門脈圧亢進症に関連した肺動脈圧高血圧症で右心系への後負荷のため、心肥大を来す。症状は胸痛や失神である。
hepatopulmonary syndromeは肺血管拡張によりシャントが生じ、十分に酸素がができなくなった状態をさす。このため心機能には異常を認めないが、進行性の呼吸苦を伴う。