2019/08/25

ERAS protocol for cardiac surgery


Guidelines for Perioperative Care in Cardiac Surgery
Enhanced Recovery After Surgery Society Recommendations
JAMA Surg. 2019 May 4 [Epub ahead of print]
Engelman DT, et al


【エビデンスの根拠となる論文の選択】
2000年から2019年に至るまでのERASに関する論文4052編を解析、そのうち解析に適応できる質を持った197論文を用いてメタアナリシスを行い、ガイドライン作成の根拠とした。

【術前治療】
HbA1c: < 6.5 とすることによって縦隔感染、虚血イベントを減らすことができる。しかし実際には心臓手術を受ける患者の25%がHbA1c > 7%であり、そのうち10%は糖尿病と診断されていない。ある後ろ向き研究では手術前の血統コントロール目的の入院が長期生存と関係していたが、術前の介入が予後をよくするのかについては不透明である。今のところ、推奨は術前にA1cの測定を行いリスクを評価することである(Class IIa Level C)
Alb:低アルブミン血症はAKIや人工呼吸期間延長、感染、そして死亡率と関係している。術前のアルブミンを測定することが術予後の予測に有用であるとするメタアナリシスがある(当院ではなぜか計っていない)。アルブミンの測定は有用である(Class IIa Level C)
栄養評価:低アルブミン血症の患者に7-10日栄養改善治療を行うことで予後が改善したとの報告がある。栄養状態を改善させるために手術を延期させた方が良いかはさらなる研究が必要であるが、術前の栄養改善は推奨される(Class IIa Level C) 
全身麻酔前の補水:手術2-4時間前までの水分補給はERASプロトコルの重要な柱であるが、心臓手術の術前の経口補水についての大規模な研究はない。小規模の研究では心臓手術2時間前の経口補水は安全で誤嚥は起こらなかったと報告している。現在出ているエビデンスでは心臓手術2-4時間前まで経口補水は続けるべきである(Class IIb Level C)
術前の炭水化物負荷:炭水化物飲料(24gの炭水化物の入った飲料)を手術の2時間前までに摂取すると、インスリン抵抗性が減少し、組織のグリコシル化(糖鎖付加)も抑制、術後の血糖コントロールが改善し消化機能の改善も早まるとのエビデンスがあるが、質としては低い。(Class IIb Level C)
患者参加の促進:周術期管理に患者自身が参加することにより、より回復が早くなるとの報告あり、これらの取り組みは推奨されている(Class IIa Level C)
術前リハビリテーション:術前からの筋力強化プログラムの実施について、非心臓手術での研究では術前の3-4週間のトレーニングが予後を改善させたとの報告があった。心臓手術においてのエビデンスは少ない。(Class IIa Level B)
禁煙と禁酒:心臓手術で術前1ヶ月前からの禁煙が術後アウトカムを改善させるとの報告があるが、サンプル数が少ない。少なくとも予定手術を受ける患者は禁煙、禁酒についてのスクリーニングを受けるべきである(Class I Level C)

【術中管理】
SSI予防:SSIバンドルにもとづいた治療がメタアナリシスで推奨されている。S.aureusの保菌者(18-30%いる)はSSIのリスクが3倍となるため、除菌をすべきである。クロルヘキシジンへの沐浴については一定の効果があるとされている。
高温防止:CPBからの複温の過程で中心体温が37.9度以上となると、認知障害、感染、腎機能障害が増加する。術後24時間以内の高体温は認知障害と関連し値得るため、正常体温を保つべきである(Class III level B)
胸骨固定方法:ワイヤーによる胸骨固定が現在最も一般的な固定方法ではあるが、rigid plate fixation (右図)の方が、縦隔感染のリスクを下げるとの報告がある。また90日コストの差も認めなかった。これもサンプルサイズが足りないため、エビデンスとしては低いがリスクの高い患者(肥満、胸部への放射線治療、COPD、ステロイド使用)については推奨される。(Class IIa Level B)
トランサミン:トランサミンの使用は強く推奨されるが、高容量では痙攣と関連しているため、最大100mg/kgまでの投与量が推奨される。トランサミンはOPCABGでも使用すべきである。(Class I Level A)

【術後管理】
血糖管理:周術期の血糖コントロールは強く推奨される(Class I level B)。血糖コントロールが予後の改善をもたらすことが複数のRCTで結論があり、また術前の炭水化物負荷が術後の血糖値を下げることも示されている。心臓手術後の高血糖は糖毒性、血栓傾向を引き起こすとされている。インスリンの使用により、血糖値を160-180に保つべきである(Class IIa Level B)
疼痛コントロール:多角的鎮痛管理(マルチモダール)が術後疼痛管理に優れているという論文が増加している。ただし、NSAIDsの使用は心臓術後の腎機能障害と関連しているとの報告がある。最も安全な非オピオイド鎮痛はアセトアミノフェンである。トラマドールも鎮痛効果が高いが、せん妄のリスクを伴う。術前のプレガバリン投与が術後の疼痛スコアを下げたとの報告もある。デクスメデトミジンはオピオイド使用量を減らし、30日死亡率、挿管期間の短縮をもたらしたとの報告もある。ケタミンも小規模後ろ向き研究で心臓手術後の効果が示されているが、さらなる研究が必要である。どの鎮痛薬を使用すべきかの明確な推奨はないが、アセトアミノフェン、トラマドール、デクスメデトミジン、プレガバリンの使用を推奨する (Class I Level B)
せん妄スクリーニング:心臓手術後50%の患者が意識や認知の変容をきたす。せん妄のスクリーニングは少なくとも1回/看護師の1勤務(当院の場合1日2回)を行うべきである。予防的向精神薬がせん妄を予防するかどうかは現在のところエビデンスがない。(Class I Level B)
低体温の予防:ICUに入院した患者は少なくとも5時間は体温を36度以上に保つべきである。(Class I Level B)
胸腔ドレーン:胸腔ドレーンのstrippingやmilkingはチューブに陰圧をかけ、ひいては心臓や肺の損傷に繋がるとのメタアナリシスが出された。しかし、胸腔ドレーン自体からいかに効率よく血栓や排液を回収するかは重要であり、積極的な胸腔ドレーン排液が術後心房細動を防ぐとの報告もある。胸腔ドレーンの開通性の維持は推奨されるが (Class I Level B)、血栓を取り除くために清潔なドレーンを割いたり切断することは推奨されない(Class IIIA Level B)
血栓予防:血栓予防薬剤治療は循環動態が落ち着くとともに開始すべきである(通常POD1から)(Class IIa Level C)
抜管:ICU到着後、6時間以内の早期抜管はICU滞在日数を減らし、病院コストも下げるとする複数のRCTがあるが、メタアナリシスでは早期抜管と死亡率や合併症発生率には関連を認めなかった。しかしエビデンスに基づきICU入室後6時間以内の抜管を推奨する (Class IIa Level B)
AKI予防:AKIは心臓手術で22-36%に発生し、発生すると病院コストは2倍となる。腎機能バイオマーカー測定とそれによる治療アルゴリズムがAKIの減少につながったとの報告がある。アルゴリズムにはACE・ARBの中し、クレアチニン、尿量の頻回測定、血糖コントロールおよび造影剤使用を控える、循環血液量の注意深い観察が含まれる。
Goal Directed Fluid Therapy:Goal Directed Fluid Therapyを推奨すると書かれているが、その内容について(何を指標に何を入れるのか?)についての記載なし (Class I Level B)