2019/02/16

重炭酸を重症アシデミアで投与すべきか?



Lancetから。
Sodium bicarbonate therapy for patients with severe metabolic acidaemia in the intensive care unit (BICAR-ICU): a multicentre, open-label, randomised controlled, phase 3 trial.
Lancet. 2018 Jul 7;392(10141):31-40.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29910040


重症アシデミア(pH < 7.2)で重炭酸を投与するというのは長年されていたことではあるが、数年前から、それって意味なくない?という風潮になってきた。
その根拠となったのが、後ろ向き研究で重炭酸を投与した群での予後が全く変わらず、カテコラミンの使用量も全く変わらなかったという結果であり、これを受けて、最新の敗血症治療戦略SSCG2016でも、重炭酸をしようすべきpHレベルはよくわからないとなっている。また、重炭酸を投与すると、細胞内アシドーシス(CO2の貯留による)と、低Ca血症を招くこと、循環器系への効果が何もないことも、重炭酸に対する根強い反対がある理由である。
そうは言っても、早期にpHを是正することで、腎臓に対する保護効果はあるのではないか?透析を遅らせることができるのではないかと考え、前向きのRCTを組んだのが本研究である。

仮説は、「早期に重炭酸投与は重症代謝性アシデミアのある患者の28日死亡率をへらす」

フランスの26施設のICUを対象にサンプル数を400人と見積もって(28日死亡率を45% vs 30%で計算)重炭酸投与群とコントロール群に分けて評価した。

primary outcomeは28日死亡、7日目の1以上の臓器障害の有無
重炭酸投与群ではpHが7.3以上になるように4.2%重炭酸を投与した(1日投与量の上限は1000ml)

結果は、primary outcomeには差を認めなかった。腎代替療法の導入は重炭酸投与群で少なかった。
またサブグループ解析では、腎機能障害AKIN 2-3の群において、腎代替療法がへり、また腎代替療法の導入時期も遅らせることができた。


うーん。腎臓を守ることを考えて投与するのはありなのかもしれない。

姫路赤十字病院のアシドーシスおよびAGギャップ、BEあたりの話がまとまっていて
とても勉強になった。
http://himeji.jrc.or.jp/category/diagnosis/naika/pdf/2015/20150716.pdf


=======

じゃあ心臓血管外科の手術後はどうなんだという話。

A perioperative infusion of sodium bicarbonate does not improve renal function in cardiac surgery patients: a prospective observational cohort study.
Crit Care. 2012 Aug 16;16(4):R156. doi: 10.1186/cc11476.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22898367

心臓血管外科手術に関連したAKIに対して、周術期の重炭酸は意味がないという結論の論文。
これが2012年に出たのに対して、2015年に疑問視する論文が出ている。

Does sodium bicarbonate infusion really have no effect on the incidence of acute kidney injury after cardiac surgery? A prospective observational trial
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4470026/

AKIになるリスクの低い患者に対しては、重炭酸が効果があると。なんかちょっと疑問。。。ハイリスクの患者で効果があって然るべきだと思うのだが、まだ中身を読んでないのでなんとも言えない。

この分野でもRCTが進むといいな。というか自分でもやりたいな....