Spinal Cord Protection in Elective Thoracoabdominal Aortic Procedures.
J Cardiothorac Vasc Anesth. 2019 Jan;33(1):200-208.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30032971
トロント大学病院麻酔科・心臓血管外科からのReview article
疫学
Thoracic aortic aneurysm(TAA) の発生率は10.4人/10万人/年である。発生率に性別差はないが女性の方が瘤の増大は速い。
TAAの外科的治療における30日死亡率は5-10%。主要合併症には、脳梗塞、透析を必要とする腎機能不全、麻痺である。Spinal cord injury (SCI)は合併症の中でももっとも予後を悪くするもの、発生率は5-20%である。またSCIを合併すると、30日死亡率は39%にまで上昇する。
SCIの発生機序、脊髄の栄養血管
脊椎・脊髄を栄養する脊椎動脈は、1) 椎骨・鎖骨下動脈、2)胸腹部大動脈、3)内腸骨動脈の各分節動脈から分岐し、前脊椎動脈1本と後脊椎動脈2本を作る。大動脈からでる最も太い根動脈をAdamkiewicz動脈といい、Th9-12、左から出ていることが多い。
術前にこれらの血管走行を画像検査することが発生率低下に繋がったというエビデンスはない。
SCIは2つの機序に発生する。1) 術中 大動脈クランプが長時間となり脊髄神経が虚血となる 2) 術後 永続的な血液供給の低下による。またこれらの機序とは別に、血栓が脊髄動脈に詰まり梗塞を引き起こすという研究も日本から報告されている。
臨床症状
麻痺の発生は3つの時期に分けられる。1)術中
2) 術直後(術後数時間以内)3)遅発性(術後数日後)
麻痺を早期に発見すれば、介入治療が可能であるため、早期発見が重要である。術後24-48時間は1時間毎にチェックした方が良い
大腿屈曲、膝伸展、足関節背屈、底屈をチェックする。
SCIを予防するストラテジー
1) 大動脈遮断時間を短くすることが最も重要である。Stepwise, staged sequential clamping(分節的遮断法)などの工夫がある。術式をハイブリッド形式にすることも。2)左心バイパスを用いる。ただし脳虚血のリスクもあり、循環動態の安定が必須。3)ハイリスク患者にはスパイナルドレナージを挿入し、予防目的に使用する。
術中管理:術中の脊髄圧を8-12cmH2Oとする。MAPを80-100とする。MEPをモニタリングする。貧血を避ける(Hb > 10g/dl) 低体温とする
術後管理:術中の脊髄圧を8-12cmH2Oとする。MAPを80-100とする。1時間毎に下肢の所見をとる。
麻痺が起きなければ、24時間後スパイナルドレナージをクランプする。48時間後に抜去する。
麻痺が起きた場合 ドレナージを続ける max 25ml/h (多すぎる気がする...) スパイナルドレナージが入っていない場合は挿入する。MAPを80-100とする。貧血避ける (Hb > 10)。 酸素化 (SpO2 > 92%)。 硬膜外血腫の可能性を否定するために脊髄のCT・MRI
その他の予防や治療法
プレコンディショニング、ポストコンディショニングについても少数サンプルでの報告ある。高圧酸素療法によるプレコンディショニングが動物実験で結果が出ているが、人間では不明。