2015/03/31

脊椎手術後のNeuraxial Blockageは相対的禁忌か

キーワード「Previous lumbar spinal surgery(PLSS)」を用いてPubmedで芋づる式に文献を拾ってみました。といっても少ないですが。

 そもそも「脊椎手術後の患者に硬膜外麻酔、腰椎麻酔は相対的禁忌」とされた歴史的経緯はさぐると、1956年のNEJMの論文(1)で “spinal anesthesia should not be givent to a patient with affliction of the central nervous system or spinal column”という一文から、脊椎手術(特に腰椎の手術)後の硬膜外麻酔、およびspinalが避けられるようになった。しかしこの論文では手術後のneuraxial blockが合併症を増やすという研究ではなかった。
 1980年にA&Aに33例の腰椎手術後の患者にspinal を行ったが、特に合併症はなかったとの報告がされ(2)、「相対的禁忌」に疑問が呈されたきっかけとなった。この報告(clinical report)での成功率は100%となっている。
 さらに1990年にはBJAに脊椎術後の硬膜外麻酔が合併症を増やさないとする論文が掲載された(3)。1381人の硬膜外麻酔を行った患者のうち、57人が脊椎手術後に硬膜外麻酔を行っており、成功率は91.2%であった。3人で技術的な困難があり、2人に不適切な薬液の広がりが認められたとしている。2009年に韓国から報告されたPLSS後CSEAの合併症の発生においても同様に差は認めなかったとの報告があるが、やはり、PLSS後のCSEAの方が薬剤が高位にまで広がることを指摘している(4)。
 
 文献の経緯をみると、1990年〜2000年にかけて「脊椎手術後でもneuraxial blockは相対的禁忌ではない」という風潮(?)が高まってきたようだ。しかしここまでの文献はどれもsample数が少ない。 
 そこへ2010年、Mayo Clinicから気合の入った研究がA&Aにだされた(5)。これ以降、だれも脊椎手術後のneuraxial blockが相対的禁忌と言えなくなってしまったのではないだろうか…(言い過ぎか?)
 Mayoの論文はMayo Clinicで過去15年間にneuraxial blockをうけた15歳以上の成人患者から、施術前に脊椎症状もしくは脊椎手術の既往のある患者を洗い出してその合併症を追跡したものである。抽出した患者数は937人。そのうち207人が脊椎手術の既往を持っていた。結果は、脊椎手術の既往の有無でneuraxial blockの合併症の発生率には差を認めなかった(table3)。脊柱管に病変のある患者では施術後の合併症が高い傾向があった。
脊椎手術を行った患者のうち83%(165人)は、創部から2椎間以内の位置でneuraxial blockが行われていた。

参考文献)
(1)  Exacerbation of Pre-Existing Neurologic Disease after Spinal Anesthesia. N Engl J Med. 1956 Nov 1;255(18):843-9.
(2)  (1)  Spinal anesthesia for surgery in patients with previous lumbar laminectomy. Anes & Anal 1980 Nov 59(11):881-882
Anes & Anal 1980 Nov 59(11):881-882
(3)  Extradural anaesthesia in patients with previous lumbar spine surgery.Br J Anaesth. 1990 Aug;65(2):237-9.
(4)  Spinal Anesthesia with Isobaric Tetracaine in Patients with Previous Lumbar Spinal Surgery. Yonsei Med J. 2009 Apr 30;50(2):252-6
(5)  Neuraxial blockade in patients with preexisting spinal stenosis, lumbar disk disease, or prior spine surgery: efficacy and neurologic complications. Anesth Analg. 2010 Dec;111(6):1511-9
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