2015/11/29

周術期輸液戦略とグリコカリックス




土曜日に「周術期輸液戦略」のセミナーに行ってきた。

要約すると、
・昔は開腹術だと手術開始前までに1000mlくらい輸液しているのが普通だったが、これはナンセンス。予防的にvolumeを晶質液にせよ膠質液にせよいれても血管外に移動するだけ。
・特に膠質液は投与するタイミングによって血管外への移行割合が異なる。
・ノルアドレナリン等を用いてまで輸液量を絞ったほうが、術後合併症の頻度も減る。
・敗血症などで膠質液の投与の効果がない原因として、血管内皮のグリコカリックスの荒廃がある。

症例検討がとても面白かった。




2015/11/25

ヘパリン抵抗性でACTが伸びない場合の対応

2013年に人工心肺使用手術でのへパリン抵抗性の原因と治療についてのreviewがA&Aに
掲載されていた。

Review article: heparin sensitivity and resistance: management during cardiopulmonary bypass.
Anesth Analg. 2013 Jun;116(6):1210-22.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23408671


心臓手術におけるヘパリン抵抗性の頻度は様々な報告があるが、だいたい15-20%である。

そもそもヘパリンはどのようにしてACTを延長しているのか。
ヘパリンは凝固因子II(トロンビン)および凝固因子Xに対しての作用をもつ。
末尾のpentasaccharide sequenceでAT(Antithrombin)に結合し、抗凝固能をIIでは4000倍、Xでは1200倍にまで高める。
またヘパリンにはATを介さないHCIIによる抗凝固能も持っている。ヘパリン濃度が1.0unit/ml以上となると、HCIIを介してトロンビンを不活化する。
ヘパリンのクリアランスはrapidクリアランスとして内皮細胞で行われるが、遅延性に腎排泄も認める。T1/2は濃度依存性である。 25unit/kgの投与では30minに対して 400unit/kgの投与では150minにもなる。また腎不全の患者ではT1/2は延長する。

ACT計測の仕組み
心臓手術での人工心肺のように抗凝固を強く維持したい場合、APTTでは値がふりきれてしまうため、慣例的にACTが使用される。ACTの仕組みは単純で全血(whole blood)をカオリンなどの凝固活性因子と混ぜ合わせてその凝固までの時間を計測するものである。
ACT自体は様々な要因に影響を受ける。
 ・低体温
 ・血液希釈
 ・薬物(ヘパリン、ワーファリン、アプロチニン、プロタミン)
 ・血小板数
 ・凝固因子の減少(AT  フィブリノーゲン、外的凝固因子、内的凝固因子)
 ・基礎疾患(カルジオリピン抗体など)
プロタミンも血小板機能低下や血清内のプロテアーゼ阻害によりACTを延長させる働きもある。

CBPをまわせるACTの最低値はいくらか
1975年の論文でACTが300のときに人工心肺に血栓を目視できたと報告しており、300以上にすべきとの主張が今日まで継続されており、慣例的にヘパリン濃度 2unit/mlとなるか、もしくはACT > 350を目標としている。ヘパリンの最小限の投与量はわかっていない。

ヘパリン抵抗性のメカニズム
AT減少は一つの原因である。先天性のAT欠損は1/3000人程度であり、AT濃度は正常の40-60%程度となっている。後天性AT減少は肝疾患や低栄養、ネフローゼ症候群、そしてヘパリン投与歴が原因となっている。
ヘパリン抵抗性を示す患者全員にAT製剤を投与してもACTが伸びるわけではない。このACTが伸びない患者ではATを介さない、別の原因がある。
術前のヘパリン使用はヘパリン抵抗性を示す1つの原因である。ヘパリンを持続的に使用すると、ACTレベルが5-7%/dayで低下する。さらにIABPやECMOなどの補助循環装置の使用はATを枯渇させるため、ATの低下につながる。
薬物との関連として、1990年代にはニトログリセリンとヘパリンの同時投与がヘパリン抵抗性をつくるとの論議があった。
心疾患患者ではもともと凝固因子VIIIが上昇している傾向があることが報告され、このVIII因子の増加がヘパリン抵抗性を生んでいるともいわれている。

治療は?どこまでヘパリンを追加投与するか
ACTが目標値に達しなかった場合、まず行うことはヘパリンの追加投与であろう。しかしヘパリンは血中濃度4unit/ml以上としてもACTは伸びない。
1984年にはFFPがヘパリン抵抗性に効果があるとの報告があり、以降FFPが凝固因子補充目的に使用されている。しかしATIII単独製剤も販売されており、FFPではなく、ATIIIの投与が推奨される。
ATIII製剤は山羊のミルクから精製されており、このミルクに対してアレルギーのある患者は使用できない。人から精製したATIII製剤と山羊から精製した製剤ではT1/2も異なり注意が必要である。
AT製剤を投与してもACTが延長しない症例もある。このような場合はそもそも決め打ちでヘパリンを投与し、ACTを見ないという治療(方法?)もあるが、あまり実施されていない(そりゃそうだ)

結局のところ、ヘパリン抵抗性の患者さんにであったらの対応は、
・全員に聞くかわからないけどATIII製剤は投与してみよう。
・他の凝固成分不足かもしれないから、FFPを検討。
・ヘパリンは最大血中濃度が4unit/mlとなるまで投与する。
・それでもだめならACTをあてにしない。


日本で発売されているATIII製剤はノイアートで、1500単位/B である。

-----
話は変わるが、
HIT患者へのアルガトロバンは 0.1-0.3mg/kg投与後に 5-10γで維持。
半減期が長い(40分)のでポンプをおりたあとも効果が遷延する→止血に難渋

まとめよう。